産業医・夏目誠の「ハタラク心を精神分析する」
医療・健康・介護のコラム
殴られても離れられない「共依存」の関係、どうすれば……
二人は「共依存」の関係
私 : いかがでしょうか?
秋葉さん: 先生、私だけが働いているんです。彼はフリーター。私がいるから、この人はやっていけるんだと。私がいなければ、彼はダメになってしまう、だから私ががんばって働いています。彼も「お前がいなければ、僕はダメになる」と甘えるんです。
私 : 甘えるんだ。
秋葉さん: 私は一生懸命働いています。でも、彼に正社員になってほしいんです。将来を考えると。
私 : 専門的になりますが、お二人は「共依存」関係にありますね。お互いに過度に依存し、相手をそれぞれが支配、コントロールする関係を言います。彼は、あなたに暴力をふるうことであなたを支配し、あなたは「彼は私がいないとダメになる」と、つくすことで彼をコントロールしているのです。
秋葉さん: 聞いたことはあります。
私 : 少しずつ理解いただければ。
秋葉さん: わかりました。すぐに会社を辞めてしまうので、もうちょっと我慢したらというと、急に人が変わったようになって、同じパターンの繰り返しです。
私 : だから「共依存」ですよ。「気づき」が重要ですよ。
友人にも言われても、別れられない
秋葉さんと友人との会話を、彼女の話から再現します。
秋葉さん: 話を聞いてほしいのよ。
友人 : うーん。わかった。彼のこと?
秋葉さん: そうよ。
友人 : 相談したいのは?
秋葉さん: 彼、急に殴るのよ。
友人 : またか。
秋葉さん: 殴り続けるの。
友人 : 最低!
秋葉さん: でも、その後、優しいのよ、とても。痛かった? ごめんねって。
友人 : う~ん。
秋葉さん: 優しくされて、その後、セックス。
友人 : 好きにしたらいいよ。私、帰る。
秋葉さん: ごめん。何とかならないかと思って。
友人 : 「次に殴ったら、別れる」と言うしかないよ。
秋葉さん: 別れられない。
友人 : なぜ?
秋葉さん: 私がいないとやっていけない人だから。
友人 : まただ……。
秋葉さん: 愛しているし、彼も私を愛しているから。
友人 : 確か、前の恋人も暴力をふるう人だったよね。
秋葉さん: そう言われてみれば。
友人 : 秋葉、3人の彼氏は、見た目の違いはあるけど、ダメ男ばかりだよ。私、帰る。彼と、別れられないようだから。一度、専門家に相談した方がいいよ。
秋葉さんは、その友人のアドバイスもあって、受診したわけです。
秋葉さん: 友だちにも言われました。「好きになるのはいつも同じタイプ」「ダメ男で、生活力のない、気分が不安定ですぐに暴力をふるう男」って。
私 : 友人はよく見ていますね。
秋葉さん: 「あなた、懲りないのね」と言われます。
私 : 気づいてはいるんですね。暴力をふるう異性が好きになる。そういう人は両親にも同じような傾向がある人が多いようですが。
秋葉さん: そうです。両親も同じでした。
私 : 「過去と他人は変えられない。自分と将来は変えられる」という名言があります。変えられるのは自分だけですよ。次回までに、付き合ってきた男性やご両親について、思いつくことを箇条書きでもいいので、書いてきてください。頭や感情の整理になりますからね。
秋葉さんはその作業の中で、中学生のころの母との会話を思い出したと言います。
両親も「共依存」だった
秋葉さん: お父さんはお酒を飲むと、すぐに殴るのね。お母さんを。
母親 : でも、いい人よ。お酒が悪いのよ。
秋葉さん: 甘やかしていない?
母親 : お父さんは、私がいないとダメな人。
秋葉さん: わからない。
母親 : あなたがいるから離婚はできない。
秋葉さん: 私のせいにしないでよ。
母親 : お父さんは嫌いなの?
秋葉さん: わかんない。
母親 : 秋葉は中学生だから。無理はないね。男女の仲は難しいのよ。お父さんは私を必要としているの。
2 / 3
【関連記事】
※コメントは承認制で、リアルタイムでは掲載されません。
※個人情報は書き込まないでください。