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精子に隠された「不都合な真実」

医療・健康・介護のコラム

従来の100分の1以下の精子で体外受精が可能!…「人工卵管法」

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顕微授精不成功の夫婦の2割が人工卵管で妊娠

 これまでに、顕微授精を試みても成功しなかった夫婦を対象に、この方法を約400周期実施しました。事前に精子の精密検査は行いませんでしたが、トライアルに参加した夫婦の約2割が妊娠、出産し、残りの約8割は妊娠に至りませんでした。細かい治療成績は、また改めてお話しすることにして、このトライアルでわかったことをまとめたいと思います。

 自然妊娠でも、体外受精や顕微授精であっても、精子が卵子内に入ると、精子と卵子の遺伝子が目を覚まし、力を合わせて胚発生を始めます。ここから先は、もうだれも手伝ってはくれません。力が及ばなければ、胚発生は止まります。顕微授精は、精子が卵子に進入する機能、もしくは卵子が精子を受け入れる機能を代行する治療です。進入後は、顕微授精でも自然妊娠でも条件は同じです。

 人工卵管法で妊娠できた夫婦の場合、自力で卵子に進入でき、「その他の質」についても一定レベル以上の精子がいたということです。このような夫婦の場合、人工卵管法が可能な少数の精子が確保できれば、顕微授精を回避できます。

 一方、妊娠しなかった8割の夫婦は、体外受精でも顕微授精でも乗り越えられない「質」の問題が卵子や精子にあったことになります。一部の妊娠できなかった方の精子を後で調べたところ、以前にお話しした「隠れ造精機能障害」と言えるような様々な異常が見つかりました。

どこで治療を断念するか

 従って、事前検査で卵子に進入できそうな精子が見つかった時は、人工卵管法が第一選択になります。自力で卵子に入れる精子と受精する方がより自然で、顕微授精よりも安全性が高いと考えられるためです。

 精子の状態が悪く、選別を検討するレベルではない方は、顕微授精を選択することになりますが、現場感覚として、このような方は最初の何回かが勝負です。同じことを繰り返しても妊娠の可能性は上がりません。

 そして、精子の状態が悪いご夫婦が長年不妊治療を続けても、奥様の加齢が加わって二重苦になり、さらに妊娠の可能性が低下します。これが、治療の限界、すなわち精子の「質」がどこまで悪くなったら顕微授精を断念するか、という議論が必要と私たちが考える理由です。(東京歯科大学市川総合病院・精子研究チーム)

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seishi-shinjitu

精子に隠された「不都合な真実」

兼子 智(かねこ・さとる)
東京理科大大学院、慶應大大学院修了。薬学博士、医学博士。東京歯科大市川総合病院産婦人科非常勤講師


黒田 優佳子(くろだ・ゆかこ)
慶應大医学部卒、同大学院修了。医学博士。「黒田インターナショナル メディカル リプロダクション」院長


萩生田 純(はぎゅうだ・じゅん)
慶應大医学部卒。博士(医学)。東京歯科大市川総合病院泌尿器科講師


中川 健(なかがわ・けん)
慶應大医学部卒。医学博士。東京歯科大教授,同大市川総合病院副院長、泌尿器科部長、副リプロダクションセンター長


高松 潔(たかまつ・きよし)
慶應大医学部卒。医学博士。東京歯科大教授,同大市川総合病院産婦人科部長、リプロダクションセンター長

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