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心療内科医・梅谷薫の「病んでるオトナの読む薬」

医療・健康・介護のコラム

養父母の虐待、家出、借金 やっと手にした幸せも悲惨な事故が…夫と息子を失った38歳女性を支えたもの

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あの日、チャイルドシートを使っていれば…

 交通事故で、愛する夫と息子を同時に亡くしたのだ。

 「あの日、仕事で疲れた夫に運転させてなければ。助手席で子どもを抱かずに、チャイルドシートを使っていれば……」

 外来でY美さんは泣き崩れた。私もかける言葉がなかった。

 やっぱり自分は「不幸」を連れてくる女。幸せになんかなれない。彼女のそうした嘆きに、応えてあげる言葉が見つからなかったのだ。

夫の忘れ形見のような女の子が

 今回も、彼女の「うつ」はなかなか治らなかった。夫と子どもの死は「自分のせいだ」という思いはずっとつきまとった。

 ようやく変化の兆しが訪れたのは、それから1年後のこと。夫の忘れ形見のような、かわいい女の子が産まれたのだ。

 「この子を死なせてはならない!」というY美さんの強い思いは、時々彼女自身をも苦しめたけれど、それ以上の価値があった。「この子のために、私は死ねない」という気持ちが、生きる意欲になり、生きがいになって、彼女と娘を支えてくれたのだ。

 「先生は以前、『これだけの不幸なんだから、かけがえのないネタだと思って小説でも書いたら?』って言ってましたよね? さすがに私にとってはつらすぎて、ネタとは思えないけど、でも今度、こんなのを作ったんですよ」

 と、SNS用に作った動画を見せてくれた。

 最近、娘が飼い始めたという小さなヨークシャー・テリアが服を着せられて歩いている。その隣を、Y美さんの愛犬のシェットランド・シープドッグが歩いていく。その2匹を、小さな女の子の影があとから追いかけてゆく。みんなを守るようにして、撮影用のスマホを手にした女性の影が続く。まるで親子4人が、楽しそうに散歩しているような光景だった……。

 長い苦労を踏みしめてきたY美さんの思いが、その動画に込められている。私はそのことを思って、 (ひそ) かに目頭を押さえたのだった。(梅谷薫 心療内科医)

 *本文中の事例は、プライバシーに配慮して改変しています。

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梅谷 薫(うめたに・かおる)

 内科・心療内科医
 1954年生まれ。東京大学医学部卒。90年から同大学で精神科・心療内科研修。都内の病院の診療部長、院長などを経て、現在は都内のクリニックに勤務。「やまいになる言葉~『原因不明病時代』を生き抜く」(講談社)、「小説で読む生老病死」(医学書院)など著書多数。テレビ出演も多い。

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