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のぶさんのペイシェント・カフェ

コラム

おいしいケーキ店や無料イベントのチラシ。病院周りの「探検」で通院を楽しく

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絶品フィナンシェはどこで

 そのカフェは、今日に限って「ランチタイム過ぎの開店になる」と、昨日、聞かされた。マスターののぶさんが、がんの治療のために通院する日なのが理由だという。でも、会社の近くで昼食のラーメンを食べた後、口直しにコーヒーを飲みたくなり、もう開いているか半信半疑だったが、念のために前を通ってみた。

 おっ! 開いている。どうやら、病院は予定よりも早く終わったらしい。
 「もう、いいですか?」
 「あ、どうぞぉ」

 カウンターに座りコーヒーを頼むと、開店が遅れたお()びにと小さな焼き菓子も出してくれた。
 「病院の近くのケーキ店のフィナンシェです。その店のパティシエが作るスイーツは絶品で、病院に行くと必ず買うんですよ」

 のぶさんはいつも以上に、楽しそうに話している。
 「どうせ病院に行かなければならないのだから、もっと楽しくなるにはどうしたらいいかなっていつも考えているんです。病院の周囲を歩いて、おいしそうな食べ物屋や、新しくできた店などを探すのは、『探検』の第一歩ですからね」

 「た・ん・け・ん……?」
 フィナンシェから漂ってくるバターの香りとほろ苦いコーヒーの相性を楽しみつつ、自分の知っている病院のイメージや周辺の様子を思い浮かべてみた。通院なんてそもそも、気分がワクワクするとか、はっきり言って楽しいものではない。そのために通う道が探検先だなんて、まったく思いつかない。

病院に図書館司書が

 病院の周辺だけではなく、病院の中にも「探検」できる場所がある。

 「手始めに患者向けに開放している図書室や、資料が豊富な相談室……。患者にとって情報のお宝がいっぱいなんです」

 そういえば、妻の通院に付いて行った病院にも、「図書室」があった。ちょっと中に入ってみたところ、病気や治療などに関する本がたくさんあった。入院患者に貸し出すという小説なども置いてあった。のぶさんによれば、病院によっては、病気関連の出版物に詳しい図書館司書がいたり、患者が本を探すのを手伝ってくれるボランティアがいたりするそうだ。

 病院の中にコンビニエンスストアがあったり、カフェのチェーン店が入っていたりするのは、今では全く珍しくなくなった。病院のコンビニをのぞいてみると、商品棚には普通のコンビニには置いていないような入院中に使う便利グッズが並んでいるなど、発見がある。

 自由に入れる教会や 瞑想(めいそう) 室があるような病院もあるらしい。外に出て、風が気持ちよい緑の中にベンチがあれば、借りた本をそこで読むのもいい時間の過ごし方かもしれない。

無料のパンフレットやイベントのお知らせも

 「日によっては講演会などのイベントを行っていたり、自由に取れるパンフレットが置かれていたりしますよ」と、のぶさん。図書室や相談室などの設備だけでなく、掲示されているポスターやパンフレットにも、様々な役立つ情報が提供されているという。

 そういえば、病院の玄関にチラシが貼り出されていた気もするが、しっかり見たことがない。病院が主催の講演会の多くは無料だし、パンフレットも勝手に持っていっていいケースが多いそうだ。役立つ情報を無料で入手できるのだから、使わない手はないだろう。

 今日の通院では、医療者の手の洗い方がトイレに貼り出されていたのを「発見」したそうだ。インフルエンザの流行も本格化するこれからの季節、私たちの普段の生活でも役に立つ情報だ。

通院きっかけに新しい趣味や出会いが

 「たとえば通院の行き帰りに通る街中でもいいので、自分にとっての楽しみを見つけられたら、 憂鬱(ゆううつ) な通院も少しは気持ちが前向きになるんですよ」
 時間があると街のカフェを巡ると言う、のぶさん。このおいしいフィナンシェをつくるパティシエとも、そうやって出会ったのかな。

 もし、私ならば、何を探検するだろうか? ラーメン屋だろうか。通院のたびに新しい店を開拓していくのもいいかな。いや、「何を」という目的を持たなくてもいいのかもしれない。自分の 身体(からだ) に時間と手間をかけたのだから、その分、自分へのご褒美があっていい。通院がきっかけで、何か新しい趣味や出会いがあるかもしれないと考えると、確かに気持ちが少し楽になる。

 さて、そろそろ、午後の仕事に戻らなければならない時間だ。
 のぶさんは最後に一言付け加えた。

 「病気になって通院しなければならないことはつらくて、マイナスなこと。でも、そこから、自分の人生に生かせるプラスのことをいかにして見いだすか、そんな思いで通院の価値も考えてみると、それなりに楽しいし、病気も悪いことばかりではないのかもしれませんね」

 病気に限った話ではない。毎日の生活の中で、つらくてマイナスなことはたくさんある。でも視点を変えることで、悪いことばかりではないと思え、気持ちが少しは楽になることもあるだろう。会社へ戻る足が、少し軽く感じられた。

(鈴木信行 患医ねっと代表)

病院スタッフ手作りのパンフレットにはその地域ならではの役立つ情報もある。

 下町と言われる街の裏路地に、昭和と令和がうまく調和した落ち着く小さなカフェ。そこは、コーヒーを片手に、 身体(からだ) を自分でメンテナンスする工夫やアイデアが得られる空間らしい。カフェの近所の会社に勤める49歳男性の私は、仕事の合間に立ち寄っては、オーナーの話に耳を傾けるのが、楽しみの一つになっている。

(※ このカフェは架空のものです)

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のぶさんのペイシェント・カフェ

鈴木信行(すずき・のぶゆき)
患医ねっと代表。1969年、神奈川県生まれ。生まれつき二分脊椎の障害があり、20歳で精巣がんを発症、24歳で再発(寛解)。46歳の時には甲状腺がんを発症した。第一製薬(現・第一三共)の研究所に13年間勤務した後、退職。2011年に患医ねっとを設立し、より良い医療の実現を目指して患者と医療者をつなぐ活動に取り組んでいる。著書に「医者・病院・薬局 失敗しない選び方・考え方」(さくら舎)など。


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