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田村専門委員の「まるごと医療」

コラム

死の病ではなくなったエイズ 差別・偏見の解消へ「性の多様性受け入れる社会を」

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正しい知識のアップデートを

 HIV(エイズウイルス)に感染しても、きちんと治療を受けていれば普通に生活ができるし、パートナーへの感染も防げる。もはやエイズ(AIDS=後天性免疫不全症候群)で死ぬ時代ではなくなったという。その一方で、感染者らに対する差別や偏見は一向になくならない。「HIV感染症/エイズについて社会が理解を深め、正しい知識をアップデートする必要がある」。10月23日、東京・千代田区の日本記者クラブで記者会見した日本エイズ学会理事長(熊本大学教授)の松下修三さん=写真=は強く訴えた。

就職内定取り消し訴訟

死の病ではなくなったエイズ 差別・偏見の解消へ「性の多様性受け入れる社会を」

 HIV感染を理由に採用内定を取り消されたとして、原告の男性が相手先の病院側に損害賠償を求めた裁判があり、裁判所は9月、内定取り消しは違法とする判決を言い渡した。被告の病院側は、内定取り消しは原告が虚偽の発言を繰り返して適性に欠けたのが理由であり、HIV感染者についての差別や偏見といった考えはないと表明したうえで、控訴は断念した。

 この裁判が進行中だった6月、日本エイズ学会は「HIV感染を理由とした就業差別の廃絶に向けた声明」を発表した。

 声明では、HIVは、医療機関を含め日常の職場生活において感染することはないこと、厚生労働省のガイドラインでHIVに感染していることそれ自体は解雇の理由とならないと定めていることなどを説明。「HIV感染者が職場において誤解や偏見により不当な扱いを受けることがないよう、いかなる差別にも反対する」などと訴えた。

 松下さんは、裁判への関与には学会内で様々な意見があったが、最終的に一般論としての声明をまとめたとして、「差別を克服するためには、知識をアップデートし社会としての理解を深める必要がある」などと述べた。

1年間に1300人余りが感染・発病

死の病ではなくなったエイズ 差別・偏見の解消へ「性の多様性受け入れる社会を」

 エイズは1981年にアメリカで患者が報告され、83年にはウイルスが発見された。日本では85年に初めての患者が認定された。

 厚労省のエイズ動向委員会が今年8月に発表した2018年のエイズ発生動向調査によると、HIV感染者とエイズ患者を合わせた新規報告数は1317人だった。2年連続の減少で、ピーク時に比べると200人以上少なかった。性別では男性が9割以上。感染経路別では同性間の性的接触によるものが3分の2を占めている。新規報告数に占めるエイズ患者の割合は約3割のまま推移している。

抗エイズウイルス治療薬が進歩

 HIVに対する治療は、この30年余りで薬物治療が飛躍的に進歩してきた。作用の異なる薬を組み合わせてウイルスの増殖を抑え、近年では一日1回の服用で済み、副作用も少なく、耐性もできにくい新薬が開発されている。薬は一生飲み続ける必要がある。

 松下さんによると、治療の進歩によって、HIV感染者の平均の寿命は一般の人の平均寿命に近づいている。早期発見・早期治療の開始によって、エイズで死ぬことはなくなったと言えるという。しかし、検査が遅れてエイズを発症した後では、まだ手遅れになる例がある。

 発症を抑えるには、感染が疑われたら早めに検査を受けることが第一だ。検査はほとんどの保健所や自治体の施設で無料・匿名で受けることができる。自分の住んでいる地域以外の保健所でも受けられる。医療機関や郵送で有料の検査を受ける方法もある。

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田村 良彦(たむら・よしひこ)

 読売新聞東京本社メディア局専門委員。1986年早稲田大学政治経済学部卒、同年読売新聞東京本社入社。97年から編集局医療情報室(現・医療部)で連載「医療ルネサンス」「病院の実力」などを担当。西部本社社会部次長兼編集委員、東京本社編集委員(医療部)などを経て2019年6月から現職。

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