文字サイズ:
  • 標準
  • 拡大

食べること 生きること~歯医者と地域と食支援

コラム

高齢になると、歯磨きは難しくなる

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • チェック

 ケアマネジャーの吉田さんから、金田敏子さん(仮名、94)の 口腔(こうくう) ケアの依頼がありました。軽度の認知症ですが、大きな疾患もなく元気に暮らしているようです。ただ、足が弱ってきて外出が難しくなってしまいました。以前は同居する娘の香さん(同、66)と近所の歯科医院に定期的に通院していましたが、娘さんの負担も大きくなったということで訪問口腔ケアへ移行するということでした。

ていねいに歯を磨くものの……

 金田さんのアパートの呼び鈴を鳴らすと、香さんが「五島先生ですか。ありがとうございます。よろしくお願いいたします」と出てきました。「こちらこそよろしくお願いいたします」と言って、中に入りました。金田さん親子は二人暮らしですが、あまり大きくない部屋には、いろいろなものが散乱して狭く感じました。

 敏子さんの姿が見えません。香さんが洗面台の方に向かって、「お母さん、先生が来てるわよ。早くして」と声をかけています。歯磨きの最中のようです。それから数分して、ようやくゆっくりとした歩みで敏子さんが現れました。

 「どうもお待たせいたしました。よろしくお願いいたします」とていねいに 挨拶(あいさつ) されました。「こちらこそよろしくお願いいたします。では、さっそくお口の中を拝見しますね」と言って見ると、差し歯やブリッジなどはありましたが、自分の歯がそろっていて入れ歯はありませんでした。

 「わぁ、金田さん、素晴らしい! すごいですねぇ。立派な歯ですね」と言うと、敏子さんは満面の笑みで、「大丈夫ですか?」

 「もちろんです!」と言いながらもう一度確認すると、敏子さんの右側の歯はとてもきれいなのですが、左側の歯には少し汚れが残っています。全部きれいにしてあげてから金田さんに言いました。

 「右側はとてもきれいですけど、左側に少し汚れが残っていますね。左側も意識して磨いてくださいね」

 「母はいつも食事の後、5分くらい磨いているんですよ」と香さん。「素晴らしいですね。このまま維持していきましょう」と励ましました。

やはり左側だけ磨けていない

 1か月後、再び金田さんのお宅を訪問しました。今度は最初から敏子さんは椅子に腰かけていました。挨拶をしてお口の中を拝見します。やはり左側にだけ汚れが残っています。ちょっと気になって、香さんに、「お母様に麻痺はないですよね」と尋ねました。「ええ、そう言われたことはないですが」

 たまたま左だけ汚れが残るのかと思いながら口腔ケアをしました。少し気になったので、いつも使用する歯ブラシで歯磨きをしてもらいました。

 敏子さんは慣れたものという感じでブラシを右奥に入れました。力強くゴシッゴシッと磨き始めます。1分たっても同じところ、2分ぐらいしても同じところを磨いています。そこでいったんうがいをすると、再び右側を磨こうとしています。

 「金田さん、こっちも磨いてみてください」と言って、敏子さんの左の頬を軽く触りました。すると歯ブラシの持ち方を変えようとするのですが、なかなかできません。何とか歯ブラシの向きを変えて左の方にブラシを入れましたが、右側とは違って全く力が入らず、軽く触るだけ。20秒もするといつもの持ち方に戻して、再び右側を磨き始めました。

 「金田さん、こっちは磨きづらいですか?」と言って左側を指差すと、「えぇ、何かねぇ」と言います。香さんには、左側が磨きづらいので1日1回でいいのでそこをチェックしてあげてほしいと伝えました。

高齢になって手の動きが悪くなる

 高齢になると手の動きも悪くなります。手首の動き、握り方などに変化が出てきます。例えば、箸が使えなくなり、スプーン等で食事をしなくてはならない方がいます。歯を磨くという行為には、とても巧みな手の動きが必要になります。皆さんも自分の歯磨きの時、手の動きを観察してみてください。右と左を磨くときでは、持ち方、ブラシの角度、手首の動き、肘の位置が変わってくるのです。それだけ複雑な動きをしているので、麻痺などがなくても歯磨きが困難な方が出てきます。

 まずは、口腔ケアには複雑な動きが必要で、高齢になると自分では難しくなることがあると理解して、サポート方法を考えなければなりません。(五島朋幸 歯科医)

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • チェック

20190205-tgoto-prof200

五島朋幸(ごとう・ともゆき)

歯科医師、ふれあい歯科ごとう代表(東京都新宿区)。日本歯科大学附属病院口腔リハビリテーション科臨床准教授。新宿食支援研究会代表。ラジオ番組「ドクターごとうの熱血訪問クリニック」、「ドクターごとうの食べるlabo~たべらぼ~」パーソナリティーを務める。 著書は、「訪問歯科ドクターごとう1 歯医者が家にやって来る!?」(大隅書店)、「口腔ケア○と×」(中央法規出版)、「愛は自転車に乗って 歯医者とスルメと情熱と」(大隅書店)など

食べること 生きること~歯医者と地域と食支援の一覧を見る

コメントを書く

※コメントは承認制で、リアルタイムでは掲載されません。

※個人情報は書き込まないでください。

必須(20字以内)
必須(20字以内)
必須 (800字以内)

編集方針について

投稿いただいたコメントは、編集スタッフが拝読したうえで掲載させていただきます。リアルタイムでは掲載されません。 掲載したコメントは読売新聞紙面をはじめ、読売新聞社が発行及び、許諾した印刷物、ヨミウリ・オンライン(YOL)、携帯電話サービスなどに複製・転載する場合があります。

コメントのタイトル・本文は編集スタッフの判断で修正したり、全部、または一部を非掲載とさせていただく場合もあります。

次のようなコメントは非掲載、または削除とさせていただきます。

  • ブログとの関係が認められない場合
  • 特定の個人、組織を誹謗中傷し、名誉を傷つける内容を含む場合
  • 第三者の著作権などを侵害する内容を含む場合
  • 企業や商品の宣伝、販売促進を主な目的とする場合
  • 選挙運動またはこれらに類似する内容を含む場合
  • 特定の団体を宣伝することを主な目的とする場合
  • 事実に反した情報を公開している場合
  • 公序良俗、法令に反した内容の情報を含む場合
  • 個人情報を書き込んだ場合(たとえ匿名であっても関係者が見れば内容を特定できるような、個人情報=氏名・住所・電話番号・職業・メールアドレスなど=を含みます)
  • メールアドレス、他のサイトへリンクがある場合
  • その他、編集スタッフが不適切と判断した場合

編集方針に同意する方のみ投稿ができます。

以上、あらかじめ、ご了承ください。

最新記事