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心のアンチエイジング~米寿になって思うこと

コラム

若い人は知っている「片隅の幸せ」

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若い人は知っている「片隅の幸せ」

 皆さんは幸福について考えたことはありますか。実は僕はつい最近までありませんでした。もちろん、幸福、幸せという言葉は人並みに使ってきました。ですが、それが何であるか、何を意味するかを改めて考えたことはありませんでした。何か捉えどころのない、追いかけると逃げてしまう、ちょうどメーテルリンクが巧みに描いた「青い鳥」のような感じでした。

いろいろな幸せがある

 そして今、改めて論じようとすると、「幸せ」を一口で言い表すのは難しいと痛感します。

 それは「幸せ」にはいろいろな顔があるからのようです。幸福感といった「感情」を言う場合もあるし、幸福な一家という場合は「状態」です。幸せな人という場合はその人の恵まれた「性格」を指しているし、幸せを望むという場合は人生の「目的」ということになります。

 僕は88歳になりますが、その「幸福感」について、加齢による変化を振り返ってみましょう。最も古い記憶は幼稚園時代になりますが、その頃の幸せは欲望の充足だったと思います。お菓子が欲しいとか、泥んこで遊びたいとか。それで満足し、「充足感」という幸福を得ます。

小、中学、高校時代は「夢中」「熱中」が幸福

  小学校に入ると、新しいことに目を奪われ、いつも何かに「夢中」になったのを思い出します。今考えると、これが幸せだったのではないでしょうか。中学、高校の時もいつも何かに取り () かれていましたが、我を忘れる「夢中」というよりは、意識して取り組む「熱中」した状態が、幸せにつながっていました。

 大学医学部時代は、目的意識なく医学の道を選んだために学業に興味が湧かず、落ちこぼれの不幸な時代でした。ただ、その穴埋めに絵画や音楽にのめり込んだのは、今となっては貴重な財産です。芸術、その美の世界は老後の生活を豊かにしてくれているからです。

医師としては仕事が幸福の源泉

 外科医となって、形成外科に巡り合えたのは幸いでした。メスで造形する 醍醐味(だいごみ) 。退官まではどっぷり手術にのめり込み、仕事が幸福の源泉でした。この形成外科の魅力は僕だけでなく、形成外科医なら皆共有し、誰もが生まれ変わってもまた形成外科医になりたい、と言います。

 そして定年になって高齢者の道を歩み、後期高齢者に突入して久しい今、改めて考えると、幸せは意外と身近なところにあるということです。

高齢になって感じる「片隅の幸せ」

 例えばその一つは、一杯のコーヒーです。 馴染(なじ) みのカフェで過ごすひと時は、何にも増して心の安らぎをもたらします。また、孫と過ごす数分間。数時間ではありませんぞ。さらに、親しい友や女性との語らい。これを取り (まと) めて人生の片隅に潜むということで「片隅の幸せ」と呼ぶことにしましょう。このような幸せは、「青い鳥」では、「喜び」という姿で、後半の幸せの園で次から次に姿を現します。

 例えば「青空の喜び」「霧の中を素足で走る喜び」「ものを愛する喜び」「人の幸せを願う喜び」、そして何よりも「美しいものを見る喜び」などなど。これは仕事とか、社会的義務から解放された高齢者の幸せなのでしょうか。

 きっとそうではありません。メーテルリンクに言わせれば、誰でもチルチルのかぶった青い帽子のダイヤモンドの飾りを右にひねるだけで、感じることができる幸せです。僕たちの世代の多くは、働き盛りは、仕事こそ生きがいだと思っていました。しかし最近の若い人たちは、必ずしも「仕事第一」ではないと言いますから、僕たちが年を重ねて知った片隅の幸せのことをすでに知っているのかもしれません。(塩谷信幸 アンチエイジングネットワーク理事長)

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shioya_prof

塩谷信幸(しおや・のぶゆき)

1931年生まれ。東京大学医学部卒業。56年、フルブライト留学生として渡米、オルバニー大学で外科および形成外科の専門医資格を取得。64年に帰国後、東京大学形成外科、横浜市立大学形成外科講師を経て、73年より北里大学形成外科教授。96年より同大学名誉教授。日本形成外科学会名誉会員、日本美容外科学会名誉会員。NPOアンチエイジングネットワーク理事長、日本抗加齢医学会顧問、アンチエイジング医師団代表としてアンチエイジングの啓蒙活動を行っている。

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1件 のコメント

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金にならない行為による安定やリスクヘッジ

寺田次郎 関西医大放射線科不名誉享受

自分から仕事と家族を取れば何が残るか? 結局、いずれも、拘束性の強いものですし、永続性はありそうで儚いものです。 そして、ヨミドクターを見ればわ...

自分から仕事と家族を取れば何が残るか?
結局、いずれも、拘束性の強いものですし、永続性はありそうで儚いものです。
そして、ヨミドクターを見ればわかるように、心身の不調にも繋がりうるものです。

そういう意味で、スポーツや芸術などの趣味は多くの人にとって実質的な価値を持ちませんが、心の拠り所が複数あれば崩れないという部分があります。
金融の言葉で言えば、分散投資ですね。

あちこちの学会に出て、画像診断や医療システムへの意見や未来予測をこちらに書くのも暇つぶしですが、自分の中での行為の意味付けと他人の評価は別物ですからファンキーに楽しんでいきたいと思います。

きれいなものは遠くにあるからきれいなのかもしれません。

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