医療大全
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【意思決定】家族の「葛藤」(6)選択肢狭める医療格差
がんを患った身内の意思を支えようにも、医療の「質の格差」という壁がある。広島市の看護師、柴田良子さん(48)は、そう感じている。父と叔母のつらい経験があるからだ。
福岡県在住の父は、58歳で胃がんを患い、胃を全摘した。それから67歳で亡くなるまで、肺がん、骨への転移、大腸がんに相次いでかかった。
父は、緑の豊かな田舎町で、母や姉夫婦らと5人暮らし。製粉工場で60歳の定年まで働き、退職後は庭で松やサザンカなどの植木の手入れが楽しみだった。
64歳で肺がんになり、死を意識した。「まだまだ生きたい」と言った。次々と襲いかかるがん。精神的に不安定になり、不眠に苦しんだ。睡眠剤と精神安定剤と酒を一緒に飲み、気絶するように眠りについた。
本人は口にはしなかったが、家族は、この家で穏やかに生きることが父の希望なのだと分かっていた。
がんの治療を受ける大学病院へは、車で1時間かかる。亡くなる3か月前、体調が悪化し、地元の総合病院に入院した。だが、医療の質は低かった。
主治医の回診がない。吐き気や、ジリジリとした痛みを訴えても取り合ってもらえない。麻薬の貼り薬の増量を頼んだが、誰も対応しない。看護師に「麻薬の増量は死ぬ前です」と言われた。痛みに耐える父を見守るしかなかった。
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