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思春期の子どもを持つあなたに 関谷秀子

医療・健康・介護のコラム

第10部 発達障害(下)子どもがわがままを爆発させても、腫れ物に触るようでは解決しない。両親の言葉と行動で示すべきこと

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必要なのは迎合ではなく、年齢相応の対応

 それ以降、両親とも努力を始めたようです。

 次の診察では、母親は「おはよう」「お帰り」など、日常的なあいさつはきちんとするようにしていることを話しました。さらに、自分の夫に対して、あまり文句をつけないようにもしているそうです。

 父親も「洗濯物や使った食器のことなどで、妻に文句を言わせないように気をつけている。それに、週に1度は3人で一緒に食事をすることにした」などと、家庭内の空気が変わってきていることを報告してくれました。

 子どものためとはいえ、行動をすぐに変えることはなかなか難しいことです。私は両親の態度の変化を見て、A君の改善を確信しました。

 それまで、この家族は完全にA君の支配下にありました。

 わがままを言うだけでなく、「料理がまずい。作り直せ」などと母親に高圧的に振る舞うことが日常的でした。

 また、それまでのA君は、自室があるにもかかわらず、リビングルームにも自分の荷物を置いて占拠し、ゲームをしたり、そのままそこで眠ってしまったりすることもありました。両親は、テレビを見たり、くつろいだりすることが出来ませんでした。

 A君との衝突を避けるために、あえて何も言わないようにしてきたそうです。しかし、子どもの幼児的な欲求を満足させるばかりでは、解決になりません。この両親に必要なのは、A君に対して、年齢相応の対応をすることなのです。

 わがままを爆発させたA君が暴れたとしても、それに決して迎合しないこと。今までのように、腫れ物に触るような対応を続けても、A君の改善にはつながらない。たとえA君が納得しなくても、「リビングルームは家族が過ごす場所であり、自分の荷物は自室に片づける」「自分の部屋で寝る」と両親の考えをしっかり伝えるように助言しました。

 両親はそれを行動に移しました。

母親の愛情独占のために、邪魔な父親を排除したい

 次は両親とA君の3人の関係です。A君は父親から簡単な指摘を受けただけで、母親に不満を言い付けます。それに対して、母親が少しでも父親寄りのことを言うと、「お前はあいつの肩を持つのか!」と暴れ出すことも一度や二度ではありませんでした。

 一見、理不尽なA君の行動は、精神分析の「エディプス葛藤」という概念で理解することができます。簡単に言えば、母親の愛情を独占するために邪魔な父親を排除してしまいたいという願望ですが、A君がこの願望を手放さない限り、発達課題である親離れには向かわないわけです。ですからA君がこの願望を手放す方向で親は対応することが必要で、「A君のエディプス願望を満たす『父親の排除』には、両親ともに乗らないことが大切」と助言しました。

 更に母親からは、夫婦の寝室についての意見を求められたため、「両親が同室で寝たほうが、A君が夫婦仲の心配をしなくて済むだろう」と伝えると、両親はリフォームを行い、同じ寝室で眠るようになりました。

 間もなくA君が変わっていきました。

 両親が自分に対して 毅然(きぜん) と対応するようになったこと、それに以前とは家族の関係が変化したことを感じたのだと思います。母親に対する無理な要求、高圧的な態度は減り、思い通りにならなくても、暴れたりすることはなくなりました。

 修学旅行には自分で起きて、荷物も詰めてちゃんと出かけていきました。明らかに良い兆候です。

 相変わらず、リビングルームでゲームをしてはいますが、ニュースの時間には両親にテレビを譲るようにもなりました。

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shisyunki-prof200

せきや・ひでこ
精神科医、子どものこころ専門医。法政大学現代福祉学部教授。初台クリニック(東京・渋谷区)医師。前関東中央病院精神科部長。

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2件 のコメント

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理解=迎合ではない

himawari

小学校の支援員です。数ヶ月前から関わっている児童に対する学校側の支援方法に疑問を持ち続け悶々とした日々を送っています。 学校からは特性を理解し仲...

小学校の支援員です。数ヶ月前から関わっている児童に対する学校側の支援方法に疑問を持ち続け悶々とした日々を送っています。
学校からは特性を理解し仲良くなってほしい、指導は要らない、見守るだけでいいと言われその通りにしていると程なく支援員に対する暴言・暴力が表れ始め、エスカレートしていきました。
児童の特性を考えると迎合は何も生まないどころか児童の発達を妨げるのではないかと感じています。
日々の対応に困り、連日似たケースがないかとネットを頼りに探していました。
そして今日ようやく、特性がよく似ている事例に出会うことができました。
「腫れ物に触るようでは解決しない」「必要なのは迎合ではなく、年齢相応の対応」、これだ!と思いました。どんなに嫌がれても、拒否されても、悪態つかれてもブレてはいけないと改めて感じさせられました。
困難を抱えている子の数だけケアの仕方もあるのだと思います。だからこそ実際の事例はとても参考になります。
この記事に出会えて本当に気持ちが軽くなりました。感謝を伝えたく投稿します。どうもありがとうございました。

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両親そろってない場合は

五月

興味深く拝読しています。 コラムは、毎回、父親・母親、両方そろっている「親ガイダンス」、結果、ハッピーエンドで終わり、のパターンのようですが、 ...

興味深く拝読しています。
コラムは、毎回、父親・母親、両方そろっている「親ガイダンス」、結果、ハッピーエンドで終わり、のパターンのようですが、
何らかの事情で片親だけの場合は、救いようがなく、そもそも親ガイダンスすら成立しないのでしょうか。コラムを読んでいると、結局、チャンピオンケースを取り上げているだけのようで、医療者側が患者を選んでいる感じがします。
患者の背景はもっと様々なのですが。

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