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認知症介護あるある~岡崎家の場合~

医療・健康・介護のコラム

「いつ家に帰れる?」 ついに来た!恐れていた問いが…父さんの施設入所(3)

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考えたこともなかった「帰りたい理由」

 そんな愚痴とも相談ともつかない話を介護問題に詳しい知人にしたところ、「父さんは、どうして家に帰りたいのかな?」と聞かれたのです。そして、「食事が口に合わないのか、慣れない環境で落ち着かないのか、家族と離れて寂しいのか。それ次第で、杏里さんにもできることがあるんじゃない?」と。

 ……父さんが家に帰りたい理由なんて、考えたこともありませんでした。施設に対する偏見は持っていないつもりでしたが、私の中にも「考えるまでもなく、家で暮らす方が幸せ」という思いこみがあったのかもしれません。

予想外の指摘に目からウロコ

 思わぬ方向から矢が飛んできて絶句していると、「父さんが帰りたいのは、母さんがかいがいしくお世話をしてくれて、娘や孫が笑顔で遊びに来てくれた、昔の岡崎家なのでは?」と、これまた私にとっては衝撃的な問いを投げかけられました。マンパワーのない現在の岡崎家よりも、十分なケアを受けられる施設にいる方が、父さん自身にとってもベターなはず。「それを胸がつぶれるほどかわいそうとか申し訳ないとか思うのは、父さんよりむしろ杏里さんの気持ちの問題なのでは」というのです。

 まったく、痛いところを突かれました。確かに、家ではもう暮らせないから、施設入所を決断したのでした。検討に検討を重ねて、「これがベスト」と結論を出したのに、父さんに「帰りたい」と言われたら、理由も分からないうちから「この選択は間違いだったのでは」と、自信を失いかけていたのです。

 場合によっては「冷淡」とも取られかねないくらい、合理的なこの指摘。「罪悪感」という感情に翻弄されていた私には、気持ちいいほどに効きました! そうして目からポロポロとウロコが落ちたら、「ならば、父さんが老健で少しでも居心地がよくなる方法を考えよう」と思う心の余裕が戻ってきたのです。

 まずは次のお休みに面会に行き、スタッフにも相談しながら、父さんが少しでも快適に過ごせるような道を模索していきたいです。

自分の未熟さを実感

 介護で追い込まれた時こそ、広い視野を持つことが重要です。今回の経験は、SNSでもいいので、自分の気持ちを吐き出して、人の考えを聞く場を作っておくべきという教訓になりました。とにかく、一人で抱え込んだらダメ!他人の意見に耳を傾けることが大切!!と、声を大にして言いたいのですが、それって介護の世界では、ずっと言われてきたことかも!?

 父さんを介護して21年、私もまだまだです。これからも、険しくも奥深い介護の道を読者の皆さんと一緒に探求していきたいです。(岡崎杏里 ライター)

登場人物の紹介は こちら

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認知症介護あるある~岡崎家の場合~

岡崎杏里(おかざき・あんり)
 ライター、エッセイスト
 1975年生まれ。23歳で始まった認知症の父親の介護と、卵巣がんを患った母親の看病の日々をつづったエッセー&コミック『笑う介護。』(漫画・松本ぷりっつ、成美堂出版)や『みんなの認知症』(同)などの著書がある。2011年に結婚、13年に長男を出産。介護と育児の「ダブルケア」の毎日を送りながら、雑誌などで介護に関する記事の執筆を行う。岡崎家で日夜、生まれる面白エピソードを紹介するブログ「続・『笑う介護。』」も人気。

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日野あかね(ひの・あかね)
 漫画家
 北海道在住。2005年にステージ4の悪性リンパ腫と宣告された夫が、治療を受けて生還するまでを描いたコミックエッセー『のほほん亭主、がんになる。』(ぶんか社)を12年に出版。16年には、自宅で介護していた認知症の義母をみとった。現在は、レディースコミック『ほんとうに泣ける話』『家庭サスペンス』などでグルメ漫画を連載。看護師の資格を持ち、執筆の傍ら、グループホームで介護スタッフとして勤務している。

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1件 のコメント

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施設の父に面会

ジュリ

昨年の夏転倒し背中を圧迫骨折し、寝たきりになった父をお一人様の私だけでは介護できるわけもなく選択肢は介護付有料老人ホームへの終身契約しかありませ...

昨年の夏転倒し背中を圧迫骨折し、寝たきりになった父をお一人様の私だけでは介護できるわけもなく選択肢は介護付有料老人ホームへの終身契約しかありませんでした。体の自由は効きませんが、頭はクリアな父は、面会に行くたびこんな年寄りは早く死ぬべきと言います。わたしは面会の後必ず体調を崩します。このダメージから逃れるために、うちに連れ帰っても父と共倒れになるでしょう。父が認知症になってくれた方が父も楽になれるのではないかと考えてしまいます。

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