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認知症介護あるある~岡崎家の場合~

医療・健康・介護のコラム

「いつ家に帰れる?」 ついに来た!恐れていた問いが…父さんの施設入所(3)

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「いつ家に帰れる?」ついに来た!恐れていた問いが…父さんの施設入所(3)

漫画・日野あかね

「親を見捨てるような気持ち」

 母さんが体調を崩して在宅介護が難しくなったため、父さんは現在、特別養護老人ホーム(特養)の入所の順番を待ちながら、老人保健施設(老健)で一時的に暮らしています。

 老健に入所して、2か月くらいたったころのこと。父さんが「オレはいつになったら、家に帰れるんだ?」と言い出したのです。

 本人も、母さんがだんだん衰弱していくのを見ていましたし、なぜ老健にお世話になっているかを説明した時には、理解している様子でした。しかし、少し時間がたったらすっかり忘れてしまったようなのです。認知症なのですから、無理もありません。

 施設に入った人が、「家に帰りたい」と繰り返し訴える……という話は、私も取材でよく耳にしていました。そもそも自宅では暮らせなくなって施設に行ったのだから、すぐに家に戻れる場合は、ほとんどありません。面会の度に、「帰りたい」と言う肉親を置いて、施設を出るつらさ。「まるで、親を見捨てるような気持ちになる」と、苦しい胸の内を語る人もいました。

お茶を濁した自分にもモヤモヤ

 それくらいこの問題は、認知症の家族を施設に託している人には「あるある」であり、大きな悩みとなります。私もある程度は覚悟していたので、「ついに来たか!」と思いつつも、どう答えていいか分からずフリーズしてしまいました。動揺を抑えながら「今はまだ帰れないよ」と言うと、父さんは「そうなのか」と少し悲しそうな顔になりました。

 ここを出たとしても、いずれ特養に入る予定です。そのことには触れず、お茶を濁すような言い方をしたことに、心がちくちくと痛みました。

 その後、面会に行くたびに同じようなやり取りが繰り返され、それは思った以上に私にダメージを与えました。父さんの様子が気になるのですが、面会に行って「いつ帰れるのか」と聞かれることを思うと、なんとも気が重い。まさに板挟みです。

 そのつらさ故に「つい足が遠のいて、面会が減ってしまった」という話を聞いたこともあり、「う~ん、それは悲しいな」と、その時は思っていました。ああ、あの人の気持ちが、今なら分かります……。

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認知症介護あるある~岡崎家の場合~

岡崎杏里(おかざき・あんり)
 ライター、エッセイスト
 1975年生まれ。23歳で始まった認知症の父親の介護と、卵巣がんを患った母親の看病の日々をつづったエッセー&コミック『笑う介護。』(漫画・松本ぷりっつ、成美堂出版)や『みんなの認知症』(同)などの著書がある。2011年に結婚、13年に長男を出産。介護と育児の「ダブルケア」の毎日を送りながら、雑誌などで介護に関する記事の執筆を行う。岡崎家で日夜、生まれる面白エピソードを紹介するブログ「続・『笑う介護。』」も人気。

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日野あかね(ひの・あかね)
 漫画家
 北海道在住。2005年にステージ4の悪性リンパ腫と宣告された夫が、治療を受けて生還するまでを描いたコミックエッセー『のほほん亭主、がんになる。』(ぶんか社)を12年に出版。16年には、自宅で介護していた認知症の義母をみとった。現在は、レディースコミック『ほんとうに泣ける話』『家庭サスペンス』などでグルメ漫画を連載。看護師の資格を持ち、執筆の傍ら、グループホームで介護スタッフとして勤務している。

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1件 のコメント

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施設の父に面会

ジュリ

昨年の夏転倒し背中を圧迫骨折し、寝たきりになった父をお一人様の私だけでは介護できるわけもなく選択肢は介護付有料老人ホームへの終身契約しかありませ...

昨年の夏転倒し背中を圧迫骨折し、寝たきりになった父をお一人様の私だけでは介護できるわけもなく選択肢は介護付有料老人ホームへの終身契約しかありませんでした。体の自由は効きませんが、頭はクリアな父は、面会に行くたびこんな年寄りは早く死ぬべきと言います。わたしは面会の後必ず体調を崩します。このダメージから逃れるために、うちに連れ帰っても父と共倒れになるでしょう。父が認知症になってくれた方が父も楽になれるのではないかと考えてしまいます。

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