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医師が教える「女と男、髪と地肌の話」 田中洋平

コラム

それでも紫外線に対して無頓着でいられますか?

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 1980年代ぐらいまで、日本では日焼けがもてはやされていました。夏になると、老若男女を問わず、誰もがこんがりと健康的に日焼けした姿を目指して懸命に日光を浴び、薬局やスーパーには、紫外線を効果的に吸収してくれる「日焼け用オイル」がズラリと並んでいました。

 ところが、今では、紫外線はシミやシワの肌トラブルの元となるだけでなく、紫外線角膜炎、それに皮膚がんの原因にもなることは、小学生でも知っている常識になりました。

 気象庁は、紫外線指数を公開して、注意を呼びかけています。多くの女性は、日傘や帽子で直射日光から自衛し、こぞって美白化粧品を選びます。

 まさに隔世の感がありますね。

 今回は紫外線のお話です。

皮膚の腫瘍の手術後経過に影響を与えたのは……

 首の後ろの皮膚にできた良性腫瘍の治療のため、私のクリニックに来院された、長野県内の女性Aさん。60代にもかかわらず、ツヤツヤときれいな長い髪をお持ちです。ただし、診察で顔の皮膚を見たところ、シミ、シワ、毛穴の開き、たるみなどが顕著に認められました。

 日傘を持つのがあまり好きではないようで、紫外線に対しても無頓着だったそうです。

 ところが、です。

 首や耳の周辺などの皮膚は、まるで20代か30代の女性のような若々しさでした。髪の毛に隠れた頭皮を見せていただくと、やはり真っ白できれいな状態のままです。

 もう、おわかりですね。髪の毛で隠されていた部分は、どこも若い時の健康さを維持し、別人のように良好な状態だったのです。

 皮膚の腫瘍は手術で取り除き、その後、短期間で元通りに回復しました。長い髪に隠れた部分だったため、肌が若々しく保たれていたことも、治療期間が短かった原因だと思います。

 対照的だったのは、同じく皮膚腫瘍の治療で来院された30代の女性Bさんです。

 やはり長野県内にお住まいで、ショートカットがお似合いのアウトドア好きの患者さんです。世代的には、子どもの頃から帽子や日焼け止めクリームなどの紫外線対策もしっかりされてきたようで、顔全体には日焼けから来るシミやシワなどがほとんど見当たりません。

 対照的に、頭皮、耳や首の皮膚のキメは、まるで60代のように粗く、ごわごわとしていて驚きました。断言はできませんが、子どもの頃から髪形がショートカットだった影響も否定できません。

 こちらのBさんの場合は、切除手術こそうまくいったのですが、術後の回復には時間がかかりました。皮膚の老化のためか、抜糸できる状態になるまで時間がかかり、傷痕が落ち着くまでに数か月を要しました。

 紫外線による肌ダメージは、2人の患者さんの術後経過を見てもわかるとおり、想像よりもはるかに大きいのです。

実年齢よりも老けて見える人の中には

 紫外線は、地表に降り注ぐ太陽光の熱エネルギーの約5%。熱量としてはさほど多くありません。ただ、エネルギー密度が高いために、私たちの身体の表面で様々な作用を引き起こします。肌を傷める「光老化」もその一つです。

 長い期間にわたって紫外線にさらされた結果、激しく光老化してしまうと、治療には何年もかかるほどのダメージを引き起こします。さらに、それが何年も蓄積することで、治療が困難な段階にまで陥ります。

 人間を始め、哺乳類が持つ毛髪も、重要な紫外線対策になっています。

 とくに人間にとっての頭髪は、もっとも大切な頭部を守ってくれているのです。

 薄毛や短髪の患者さんを診察していると、いつも太陽光に (さら) されている部分が広い分、しわ、色素沈着、毛穴の開き、たるみなど光老化の範囲が広くなっているケースに出会います。

 結果的に、実年齢より大幅に老けて見えてしまう方は少なくないのです。

 もちろん、頭部の地肌が損傷を受ければ、髪の毛の根元にある毛母細胞がダメージを受け、抜け毛や薄毛、白髪化を促進するばかりか、生え替わりも困難になっています。

髪にとって大切なたんぱく質「ケラチン」

 紫外線の影響は、地肌だけでなく、頭髪そのものにも及びます。

 人間や動物の髪、それに皮膚、爪などには「ケラチン」と呼ばれるたんぱく質が豊富に含まれています。硬度を保つことが可能なため、組織を重力に抗して維持するのにも都合がよく、さらに水分を保持できて、太陽光のマイナスの作用から防御するにも有効です。哺乳類が生き延びるために、進化の過程で獲得したケラチンは、たくさんの機能を果たす貴重で効率のよい成分です。

 ところが、紫外線は、ケラチンを構成するアミノ酸を酸化させ、ダメージを与えてしまいます。やがて、髪の毛の硬度を保てなくなり、徐々にパサつきや傷みが進んでいきます。さらに、髪の表面を守ってくれているキューティクルが剥がれやすくなり、ハリを失って、縮れ毛や枝毛を発生させるようになります。

 抜け毛を予防し、健やかな毛髪を長く維持するためには、普段、紫外線から肌を守っているように、日傘や帽子などで、紫外線から頭部の地肌や毛髪を守る意識がとても大切なのです。(田中洋平 形成外科医)

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田中 洋平(たなか・ようへい)
 クリニカタナカ 形成外科・アンティエイジングセンター(長野・松本市)院長 新潟薬科大学客員教授、東京女子医科大学非常勤講師。1975年生まれ。

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