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「教えて!ドクター」の健康子育て塾

コラム

水害「子どもに片付けをさせないで」 汚染物質多く、感染、ケガの危険は大人以上に

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 台風19号による水害は、予想以上に広範囲にわたりました。この原稿を執筆している10月20日は発災から1週間経過していますが、いまだに被害の全容は明らかになっていません。各地の被災の様子をニュースで見るたび、心が痛くなります。

 今回は、水害時に子どもを守るため、小児科医として何が伝えられるかを考えたいと思います。

災害ボランティア参加 そこで見たものは…

災害ボランティア参加 そこで見たものは…

イラスト:江村康子

 台風19号では、私が住んでいる長野県佐久市でも千曲川が氾濫し、大きな被害が出ました。一部の地域は家も流され、床上浸水した家屋もありました。新幹線も運休となった台風明けの14日、私は名古屋への出張がキャンセルになったため、市内の災害ボランティアに参加して家屋の後片付けをお手伝いしました。

 そこで目にしたのは、水が引きはじめてもなお居座っている汚泥の強烈な姿でした。泥をどけていると、酒ビンのようなものを見つけました。手に取ってみると、なんと農薬を入れていたと思われる形跡が。ビンには泥水が入っていましたが、農薬は流れ出てしまったのでしょうか。

 床に上がり、水を吸って非常に重くなった畳を、皆でようやくはがすと、床下には泥水がたっぷりたまっていました。

 「この水がやっかいなんだよ。放置すると、すごい悪臭になって、人が住めんようになる」

 教えてくれたのは、ベテラン災害ボランティアで、他県から駆けつけてくださったAさん。微粒子の吸引を防ぐN95マスクに全身完全防備のいで立ちでした。

 家の物置を開け、汚泥の入り込んだ金属の菓子箱に手を入れたところ、中に入っていたのはハサミと爪切り。手袋はしていましたが、危うくけがをするところでした。実際に現場で作業をして、水害でやられた家屋とは、こんなに危険がたくさんある場所なんだと、改めて実感しました。

水害で残った水 破傷風、発疹、感染性胃腸炎のリスク

  さて、CDC(アメリカ疾病対策センター)がまとめた 洪水に関する健康情報 によれば、水害の後に残された水には、人や家畜の排せつ物(下水があふれた場合)、家庭や医療機関、工場などからでる有害廃棄物(農薬、肥料、殺虫剤、工業廃棄物など)、木材、破片などけがの原因になるものが含まれており、これらによって引き起こされるリスクのある病気は、傷による感染症、破傷風、皮膚の発疹、感染性胃腸炎(大腸菌・サルモネラなど)などがあります。

 したがって、水害の水に触れた場合には、できるだけ早く、せっけんやきれいな水で洗って清潔にする必要があり、けがをした場合には、速やかな応急処置と、必要に応じて医師の診察を受ける必要があります。けがをしたときの状況を、 些細(ささい) なことであっても、なるべく詳しく、スマホなどで現場の写真などを添えて、医師に教えることが大切です。

米国小児科学会「子どもは清掃するべきではない」

  水害後の生活環境は、子どもの健康にどのような影響を与えるのでしょうか。

 米国小児科学会は 「洪水やハリケーンの被害を受けたエリアへの子どもの帰還に関する臨床医からの勧告」 の中で、次のように述べています。

  • 子どもは有毒物質にさらされやすく、大人より深刻な影響を受ける可能性がある。
  • 子どもは好奇心から様々なものを触りたがる(探索行動といい、半ば本能的な行動といっていいでしょう)が、その結果、成人なら避けるような危ないものにも直接触れてしまう可能性がある。
  • 子どもに対して起こりうるリスクは、溺死、破片によるケガ、化学物質による汚染、低体温症、感染症などである。
  • 子どもが滞在する場所(校舎や屋外の遊び場など)は、子どもが戻る前に掃除しておく必要がある。
  • 可能な限り、10代までの子どもは清掃に関わるべきではない。子どもたちは、汚染されたエリアに戻る最後の集団であるべきだ。

美談よりも子どもの健康を

 今回の水害の後、小学校や中学校などで、「自分たちの学校なんだから、自分たちがきれいにするんだ」と、小中学生が、自ら校内の廊下などを片付けているニュースなどが報道されました。子どもたちが率先して水害の後片付けをする様子は、美談として捉えられがちです。

 その気持ちも理解できます。「子どもたちも頑張っているのだ」というニュースは、世の中を元気づける効果があるからです。

 ただ、これまでお伝えしたように、水害の後の汚水や汚泥は、健康に悪影響を及ぼす可能性が高いのです。そして、子どもたちは大人よりも影響を受けやすく、健康上のリスクも高いのです。ニュースで報道されていたのは、マスクもせず、雑巾で床を拭く子どもたちの姿でした。小児科医は、子どもの健康を守ることが仕事です。美しい話が、子どもたちの健康をリスクにさらすことと引き換えになっているのであれば、それを見過ごすことはできません。

子どもに安全に清潔な空間を

 一方で、「水害の後片付けに、親がかかりきりの間、子どもを見てもらえる場所がないので、結局、現場に連れて行くことになる。清潔な空間で子どもを安全に見てもらえる環境も、セットで考えるべきだ」という意見もありました。その通りだと思います。リスクを踏まえた上で、子どもが安全に、安心に過ごせる場所をどうすれば提供できるのか、地域全体で考え、乗り越えるべき課題だと考えています。

 被災された皆さん、自治体職員、インフラ復旧に関わる皆さん、ボランティアの皆さんのご健康、ご安全を心よりお祈りしています。(坂本昌彦 小児科医)

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坂本昌彦(さかもと・まさひこ)
 佐久総合病院佐久医療センター・小児科医長
 2004年名古屋大学医学部卒。愛知県や福島県で勤務した後、12年、タイ・マヒドン大学で熱帯医学研修。13年、ネパールの病院で小児科医として勤務。14年より現職。専門は小児救急、国際保健(渡航医学)。日本小児科学会、日本小児救急医学会、日本国際保健医療学会、日本国際小児保健学会に所属。日本小児科学会では小児救急委員、健やか親子21委員。小児科学会専門医、熱帯医学ディプロマ。現在は、保護者の啓発と救急外来の負担軽減を目的とした「教えて!ドクター」プロジェクトの責任者を務めている(同プロジェクトは18年度、キッズデザイン協議会会長賞、グッドデザイン賞を受賞)。

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