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【意思決定】家族の「葛藤」(2)「母ならどうするか」自問

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【意思決定】家族の「葛藤」(2)「母ならどうするか」自問

母の車椅子を押して近所を散歩する市橋さん。「この暮らしが少しでも長く続いてほしい」と話す(大津市で)=長沖真未撮影

 大津市の元塾講師、市橋靖夫さん(64)は、血液のがんの一つ、多発性骨髄腫と診断された母(94)の治療をどうするか悩んだ。2016年7月のことだ。

 母は認知症で、なにより高齢だ。「抗がん剤治療は負担が大きい」と主治医に言われた。病室の母の腕は、点滴の針を刺すにはかわいそうなほど細い。

 それでも、いったんは抗がん剤治療を決めた。「最愛の母ががんなのに何もしないわけにはいかない」と、自分に言い聞かせた。

 しかし、治療開始の前日に母が発熱した。血液検査をすると、貧血も進んでいる。主治医が申し訳なさそうに、「治療に入るのは危険です」と伝えてきた。

 中止の決定を聞いた時の自分の気持ちを、市橋さんは忘れられない。胸にこみあげた感情は、落胆とは逆の、 安堵あんど だった。

 自分が小学生の頃から、母はよく体調を崩して寝込んだ。「50歳までしか生きられへん」が口癖だった。その母が、90歳まで生きてきてくれた。十分に頑張ってくれた。もう、大変な治療で母を傷つけなくてもよい。市橋さんは、そんな思いに包まれた。

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