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在宅訪問管理栄養士しおじゅんのゆるっと楽しむ健康食生活

コラム

太っている人ほど医療費を使っているの?

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 もし、あなたが突然倒れて救急搬送され、緊急手術で一命を取り留めたとします。集中治療室で治療を受け、退院したら、総額で何百万円という医療費がかかるはずです。さほどお金の心配をしなくて済むのは、健康保険制度、それに高額療養費の補助制度で、一定額以上の医療費の支払いは免除されるからです。

 日本では、国民医療費が年々増え続け、2018年度には42兆6000億円に達するなど、大きな問題となっています。

 ところで、糖尿病や高血圧症など生活習慣病のイメージがあるため、「太っている人ほど医療費をたくさん使っている」というイメージ、お持ちじゃありませんか?

「痩せている人が健康」とは限りません

 私が日ごろ訪問している在宅療養中の患者さんには、ガリガリに痩せて、全身の栄養状態が悪くなっている方が少なくありません。ある調査では、「低栄養、または低栄養の恐れあり」と判定された在宅療養高齢者は約8割に上ると指摘されています。さらに、低栄養の高齢者は、 咀嚼(そしゃく)嚥下(えんげ) の障害が多く、誤嚥性肺炎や床ずれが発症するリスクが高いことも明らかになっています。(1)痩せて、栄養状態が悪い状態では感染症にかかりやすくなり、脂肪や筋肉が少ないと床ずれが生じやすくなるわけです。

 先日、ある研修会で大変興味深い研究を知りました。

 東京大学大学院医学系研究科加齢医学講座の小川純人准教授による、「BMIと医療費の関係」です。BMIとは「体格指数」と呼び、体重(キログラム)を身長(メートル)の2乗で割ったものです。

 例えば、体重50キロで身長が160センチの方の場合は、50÷(1.6)=19.531…となります。この方のBMIは約19.5(㎏/㎡)になります。「標準体重」とされるBMIの範囲は18.5~24.9とされています。(2)

 小川先生が健康保険のデータを使って分析したところ、BMIが高すぎても低すぎても、明らかに医療費が高くなるという結果になりました。(3)

 ちょっと専門的なグラフですが、イメージをつかんでいただけると思いますので、引用しますね。

 縦軸は医療費指数で、BMIグループごとの総医療費を平均医療費で割ったものです。横軸はBMIで、数字が高いほど太っている集団になります。縦の棒線は、それぞれのBMIに属する人数で、18~24の標準体重ゾーンに多く集まっているのがわかります。◆で表されているのが、それぞれのBMIグループごとにかかっている医療費を示す指数です。

 標準体重のゾーンにいる人たちに比べ、痩せている人、太っている人の医療費が跳ね上がっているのがわかります。

「低栄養」に陥りやすい疾患とは

 とはいえ、「痩せやすい病気もあるのでは?」と思う方もいらっしゃるでしょう。

 その通りです。

 病気の影響で食欲が低下し、栄養が取れなくなるケースのほか、感染症や手術などにより、体がより多くのエネルギーを必要とすることで、「食べていても栄養が不足しやすい状態」が続くことがあるのです。

 以前のコラムでもご紹介した慢性閉塞性肺疾患(COPD)や脳卒中、認知症、うつ病などがそれにあたります。健康な人よりも低栄養になるリスクが高まりますので、しっかりと栄養管理を行う必要があります。

 研究では「病気による低栄養」と考えられる患者と、それらの病気はないのに「低栄養」と診断された患者を分けて分析しています。

「低栄養」の原因の1位は「摂食困難」

 この研究では、約21万人の健康保険データを検討し、がんと診断された約5万6千人を除外した上で、「低栄養」と診断された患者は2178人でした。原因は「摂食困難」が約40%、「栄養の代謝障害」が約30%、「原因不明の低栄養」が約20%でした。

 口からちゃんと食べられない「摂食困難」が、大きな割合を占めていることには少し驚きましたが、実際に医療や介護の現場では、さまざまな患者さんの症状に出会います。

 高齢になると、硬いものをしっかりと咀嚼できず、むせて飲み込めないなどのトラブルが起こりやすくなります。その結果、だんだん食べるものがワンパターンになっていき、栄養バランスが悪くなっているにもかかわらず、ほとんど同じものを毎日食べ続けている方が多くいらっしゃいます。また、足腰が悪くなったことで、家族や友人との外食機会が減るなどで、食事の質と量が低下し、体重が減少していくケースが少なくありません。

 一言で「摂食困難」といっても、本人の経済的な問題や環境要因も複雑に絡んだ結果ではないかと思います。

標準体重の集団は、平均よりも医療費を使っていない

 さらに興味深いのは、BMIが標準にある人たちの医療費が、とても低く抑えられていることでした。つまり、太ってもいないし、痩せてもいない人の医療費は、全体の平均よりも安く上がっているわけです。

 そういえば、私が所属する宮城県栄養士会の60歳代の先輩管理栄養士は、標準体重の体格の方ばかりです。何十年と栄養学を実践し、「何を、どれだけ、どんなふうに食べる」を極めてきたベテランの先輩たちです。考えてみれば、痩せすぎや太りすぎの管理栄養士に栄養指導をされても、説得力がないですよね。

 「適正な体重」を保つ 秘訣(ひけつ) は、より質の高い食生活の積み重ねにあると思います。

 生活習慣病になると、定期的に医療機関に通い、薬を飲み続けなければならないなど、医療費の負担は高くなります。それが「太っている=医療費が高い」のイメージになっているのだと思います。

 でも、痩せていても、それが低栄養、摂食障害の結果となると、やはり医療費は高くなってしまうのです。

 日本の医療費増大を減らすためには、「メタボ」の人への「特定保健指導」だけでなく、低栄養の人を早めに見つけて、適切な歯科検診とともに、「低栄養保健指導」を行うことも有効なのではないかと思うのです。(在宅訪問管理栄養士 塩野崎淳子)

参考文献
  • 1)平成25年度老人保健健康増進等事業「在宅療養者の栄養状態改善方法に関する調査研究報告書」国立長寿医療研究センター
  • 2)日本人の食事摂取基準2015年版 厚生労働省「日本人の食事摂取基準2015策定検討会報告書」
  • 3)Sumito Ogawa, et al. Malnutrition-Related Health Care Cost in Japan;An Analysis of Health Insurance Claims Data; Asia Pacific Journal of Public Health, 2019
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塩野崎顔2_100

塩野崎淳子(しおのざき・じゅんこ)

 「訪問栄養サポートセンター仙台(むらた日帰り外科手術WOCクリニック内)」在宅訪問管理栄養士

 1978年、大阪府生まれ。2001年、女子栄養大学栄養学部卒。栄養士・管理栄養士・介護支援専門員。長期療養型病院勤務を経て、2010年、訪問看護ステーションの介護支援専門員(ケアマネジャー)として在宅療養者の支援を行う。現在は在宅訪問管理栄養士として活動。

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