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のぶさんのペイシェント・カフェ 鈴木信行

医療・健康・介護のコラム

自分にとっての「いい病院」とは? 待ち時間が短い? 家から近い? それとも……

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店を休むわけにはいかないので

 「あれ? 明日は開店時間が遅いの?」
 各テーブルには、いつものメニューとともに、明日の開店時間が遅れる「お知らせ」が置かれていた。

 ここは、仕事の合間に立ち寄り、自分の時間を少し作ったり、医療オタクのマスターのぶさんの話に耳を傾けたりしているカフェ。
 「明日は、私の通院日なんですよ」
 マスターは、がんを患っていると聞いている。その定期検査のための通院日らしい。

 通院日なら仕方ないな。いやむしろ、がんの検査を受けるのに、開店時間を少し遅らせるくらいで店に出てこられるとは驚いた。がんで通院しているような大病院であれば、診察が終わるまで全部で半日ぐらいはかかりそうなものだが……。

 「私が行く病院は、だいたい予約時間に診察してくれるし、そんなに待たないんですよ。店を休んでしまうわけにいかないので、そういう病院を選んでいるんです」
 「いい病院ですねぇ。どこですか? ちょうど病院を替えようと言っている私の親にも薦めたいので、教えてもらえれば……」
 「いやいや。私にとっての『いい病院』と、お母様にとっての『いい病院』は違います」

何が大切か 優先順位を書き出してみる

 のぶさんは即座に答えを返してきた。どうやらよく聞かれるらしい。
 「自宅の近くがいいとか、家族も通っている病院と同じがいいとか、最新の検査機器がそろっている病院がいいとか、患者さん一人ひとり病院に求めるものは違うでしょう。なので、まずは自分にとって何が重要なのか、優先順位を書き出してみるといいですよ」

 なるほど。
 そこで、さっそく手帳を広げて書いてみようとしてみた。しかし、なかなか浮かばない。母にとっての優先順位って何だろう。

 のぶさんが助け舟を出してくれる。
 「お母様は、一人で通院されるのですか? だったら、ご自宅の近くがいいと思いますけど、どれぐらいの距離までならお一人で通えますか」

 確かにそうだ。母の通院にいちいち誰かが付き添うことはできない。最近は腰が痛いと言っているから、時々タクシーで行くことも考えると、母が住んでいる実家から5キロ以内ぐらいだろうか。もう、これだけでかなり通える病院が絞られてしまう。自分で運転するわけではないので駐車場はなくてもいいが、交通の便は大切だ。

医療の質にばかりに意識が行きがちだが……

 病院を選ぶとなると、つい医療の質にばかり意識がいくけれども、自分にとってのいい病院は、そういう要素だけではないことを気づかされた。
 母は複数の病気があるので、それぞれの診療科の受診日を同じ日に合わせることが大切だ。一方、そんなに珍しい特別な治療が必要な病気というわけではないから、それほど高度な医療を備えた病院ではなくていいように思う。

 いつも、通院する日は丸一日がかりだと言っていたけど、さほど嫌な顔はしていないので、これからもある程度時間がかかっても大丈夫だろう……。あ、そうか、マスターが通う病院は患者を待たせないらしいけど、母にとっては待ち時間が長いかどうかの優先順位は高くないようだ。
 他にも、いくつか母にとって優先順位が高いと思われることを書き出してみた。こんなにたくさんの条件を満たすような病院はあるのだろうか?

 のぶさんに見せてみた。さすがに母が住むエリアの病院の情報は持っていないらしい。
 「それを基に、もう一度お母様と一緒に書き出してみて……」
 そりゃそうだ。母の意見が一番大切だ。

地元の薬局は病院や医師の評判に関する情報の宝庫

 「行きつけの薬局の薬剤師さんに相談するといいですよ」
 おおお! そうきたか! 

 薬局は、地元の数多くの病院とつながりがあるし、特徴もわかっているらしい。ベテランの薬剤師だと、医師の名前が書かれた処方箋を見るだけで、その医師の資質や傾向がわかるらしい。

 例えば、処方箋に書かれた薬の数に端数が多い医師は、患者とのコミュニケーションがうまいのだという。飲み残している薬の数を引いた分を、新たに処方しているからというのがその根拠だ。飲み残した薬の数について患者が医師に気軽に話ができている雰囲気が見て取れるという。

 治療指針は年々新しくなっているにもかかわらず、昔ながらの薬の組み合わせを処方している医師は、あまり勉強していないとわかるという。薬剤師は、医師に電話で処方内容を確認する「疑義照会」をすることがある。必ずしも医師が直接、電話口に出るわけではないが、その際の病院の応答の様子でも病院の「風土」がわかるらしい。

 以前、お薬手帳を使って薬剤師と仲良くなるといいと、のぶさんは言っていたが、こういう時にも役立つのか。
 手帳を閉じながら、声をかけた。

「明日の検査、異常がないといいですね」

 のぶさんは、無言で相槌(あいづち)を返してきた。

(鈴木信行 患医ねっと代表)

呼び出しベル、順番待ちカード、マガジンラックなども自分にとっての「いい病院」かどうかを判断するための評価基準となりえる

呼び出しベル、順番待ちカード、マガジンラックなども自分にとっての「いい病院」かどうかを判断するための評価基準となりえる

 下町と言われる街の裏路地に、昭和と令和がうまく調和した落ち着く小さなカフェ。そこは、コーヒーを片手に、 身体(からだ) を自分でメンテナンスする工夫やアイデアが得られる空間らしい。カフェの近所の会社に勤める49歳男性の私は、仕事の合間に立ち寄っては、オーナーの話に耳を傾けるのが、楽しみの一つになっている。

(※ このカフェは架空のものです)

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鈴木信行(すずき・のぶゆき)

患医ねっと代表。1969年、神奈川県生まれ。生まれつき二分脊椎の障害があり、20歳で精巣がんを発症、24歳で再発(寛解)。46歳の時には甲状腺がんを発症した。第一製薬(現・第一三共)の研究所に13年間勤務した後、退職。2011年に患医ねっとを設立し、より良い医療の実現を目指して患者と医療者をつなぐ活動に取り組んでいる。著書に「医者・病院・薬局 失敗しない選び方・考え方」(さくら舎)など。


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