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夫と腎臓とわたし~夫婦間腎移植を選んだ二人の物語 もろずみ・はるか

医療・健康・介護のコラム

私の病状悪化で鍛えられた夫の家事力 「いつ私がいなくなっても困らない」と…

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 病にかかると、「まいったなぁ」と思うことが大半だが、良いこともあった。夫と家事を分担できるようになったことだ。一般的な家事は、「裁縫、しつけ、炊事、洗濯、掃除」を略した“さしすせそ”だが、我が家には子供はいない。裁縫としつけを除いた“すせそ”を、「余裕がある方が自分のペースでやる」というルールを、8年前、私の腎臓病悪化に伴って設けた。これは、腎臓病が悪化したからこそ作れたルールなので、病も悪いことばかりではないのだろう。

腎臓病悪化で家事放棄 「中食」続きに夫が「舌がシビれる」と…

37歳の誕生日プレゼントにと、夫が振る舞ってくれた手料理の数々

37歳の誕生日プレゼントにと、夫が振る舞ってくれた手料理の数々

 まず、「す」から。

 新婚当時の私は、家事は女性がするものと思っていた。「うちの夫はお米も炊けないの」「りんごの皮すらむけないんだから」なんてことを言うのが、良妻賢母の証しであり、はなから夫のことを戦力外だと決めつけていた。

 ところが、結婚2年目に死産を経験し、その影響で難病の「ネフローゼ症候群」を患ってからは、そんな悠長なことは言っていられなくなった。

 「生涯、子供を授かれないかもしれない」という不安にふたをするように、私は「仕事だけが人生」と思い込んだ。「家事をする時間があれば、原稿を書いていたい」と、家事が煩わしくて仕方なくなった。そして、ちょっと取材に出かけたり、原稿を書いたりするだけでどっぷり疲れ、帰宅後に家事をこなすのが困難になった。

 そのため、体調がすぐれない日や、原稿の締め切り間近になると、「何か買ってきてもらえるとうれしいです」と夫にメール。コンビニ弁当やスーパーの総菜でしのいでもらうようになり、そんな怠惰な生活が1か月経過したころ、夫にある変化が起こった。

 「舌がシビれる気がするんだけど。これって、保存料のせいなんじゃ……」と言い出したのだ。夫はいわゆる「中食」を拒否し、その代わり、「料理を覚えたい」と自ら申し出てくれたのだ。

包丁の使い方を教えると隠れた才能が開花

 しかし、夫は一人暮らしの経験がないばかりか、子供の頃から家事の手伝いを一切してこなかったタイプ。本当にできるかな?と最初は心配したが、それが取り越し苦労であることがすぐにわかった。

 私があらかじめ野菜を切って、自前の「カット野菜」を用意しておけば、夫は、自分が食事したいときに、みそ汁、野菜炒め、焼きそばなどを作ってくれるようになった。

 包丁の使い方を伝授すると、隠れた才能も開花。もともと手先は器用な夫は、即マスターし、数か月もたつと、「料理は創造的な行為だよね」などと言いながら、チーズケーキなどのデザートまで、私や父に振る舞ってくれるようになった。

 また、こんなこともあった。内向的な性格の夫が、私の親友のミホちゃんを招いて、ささやかな誕生日会を開いてくれたのだ。献立は夫が考え、料理もすべて一人でこなした。メニューは、サーモンサラダ、ブロッコリーのツナあえ、かぼちゃのスープ、キャロットラペ、パエリア、夏みかんのケーキ。

 私たちの事情を知るミホちゃんは、「おいしい、おいしい。お料理上手なんですね」と夫をたたえ、本当は小食なのにたくさん食べてくれた。おなかいっぱいになって帰っていくミホちゃんを見て、夫もとてもうれしそうだった。

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もろずみ・はるか

医療コラムニスト
 1980年、福岡県生まれ。広告制作会社を経て2010年に独立。ブックライターとしても活動し、編集協力した書籍に『成約率98%の秘訣』(かんき出版)、『バカ力』(ポプラ社)など。中学1年生の時に慢性腎臓病を発症。18年3月、夫の腎臓を移植する手術を受けた。

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