精子に隠された「不都合な真実」
医療・健康・介護のコラム
「精子の実力」どう調べる? DNAの傷、形状、空胞、凍結……
④先体
先体は、ヘルメットのように精子頭部の前半分を覆う袋状の小器官です。この袋の中には、受精時に精子が卵子の膜を溶かすための酵素が入っています。培養液の中で1時間ほど泳がせると、ヘルメットを脱いで卵子に侵入する準備を完了します。まず、選別した精子の何%に先体がついているか、さらに培養液の中で、どのくらいの精子が卵子に侵入する準備ができるかを調べます。精子が自力で卵子に侵入する体外受精では、運動性と先体の機能が不可欠です。

(左)ほとんどの精子が正常な形の先体を持っている(中央)先体があるのは、半分以下である(右)すべての精子に先体がない(先体欠損)
⑤中片部
精子の頭部と尾部をつなぐ首の部分を中片と呼びます。この部分にはエネルギー産生に関わるミトコンドリアという器官が入っています。このミトコンドリアを染色して、中片の機能と形態を調べます。

(左)中片にミトコンドリアが整然と並ぶ正常な形態(右)異常な形態の中片
⑥凍結保存に耐える力
精子凍結保存は、生殖補助医療における精子取り扱い技術の最重要課題の一つです。この検査では、選別した精子が凍結保存後に、どの程度生き返るかを調べます。
凍結保存以外の検査は、顕微授精や体外受精を繰り返しても妊娠できなかった夫婦の精子によく見られる異常であるため、候補となりました。現段階では、観察した患者精子の件数がまだ少なく、DNAの傷以外の異常については、不妊とどの程度関連しているか、結論は出ていません。ただ、その男性の精子に同じタイプの異常を高い頻度で認めるケースも多く、遺伝子異常を考慮する必要があることもわかりました。
自然妊娠した方の精子と、顕微授精を行っても妊娠しなかった方の精子を詳しく調べることで、精子にどんな問題があった場合に顕微授精を選択するべきか、また選択すべきでないかが、明らかになります。顕微授精を繰り返した後で従来の検査ではわからなかった異常が判明し、夫婦が混乱するような事態を避けるためにも「精子が先 不妊治療モデル」の確立と普及が必要です。(東京歯科大学市川総合病院・精子研究チーム)
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