精子に隠された「不都合な真実」
医療・健康・介護のコラム
「精子の実力」どう調べる? DNAの傷、形状、空胞、凍結……
1匹の精子を卵子に注入する顕微授精では通常、頭部が 楕円 形で、元気に動いている精子(業界では、これを良好精子と呼ぶ)を選びます。ところが、そのような見た目の良い精子にも様々な異常が潜んでいることがあり、顕微授精は、その問題に対処できていないのが現実です。
そこで私たちは、生殖補助医療を開始するに当たり、まず精子の精密検査を行い、「精子の実力」を十分に把握した上で治療法を検討する「精子が先 不妊治療モデル」の開発に着手しました。その第1次の案として、様々な精子の異常の中から選んだ検査項目は以下の六つです。
①DNAの傷
みなさん、この緑の糸は何だと思いますか? これは、精子のDNAを引き伸ばして緑色に染めたものです。あの小さな精子の頭部に、こんなにたくさんのDNAが圧縮されて収納されているのです。左端に細く見えているのは尾です。
びっくりされるかと思いますが、射精以前に一部の精子のDNAに傷がつくのは宿命です。もし、DNAに傷があると、胚の発生停止や流産の可能性が高まります。
これまでの研究で、動かない精子のほとんどはDNAがひどく傷ついていることが判明しました。このような精子は、顕微鏡で観察して排除できます。
問題なのは、元気な精子の中にもDNAに数か所から数十か所の傷があるものが混ざっていることです。私たちは、通常の体外受精や顕微授精に使われるレベルにまで選別した運動精子をスライドグラスに貼り付け、電気の力でDNAの糸を引き伸ばし、1匹ずつ顕微鏡で観察して、DNAの糸が何か所で切断(断片化)しているかを数える「単一細胞パルスフィールド電気泳動法」というマニアックな方法を開発しました。白黒の写真は、精子のDNA断片化が進行する様子を示したものです。
②頭部と尾部の形状
これまで、頭部が楕円なら正常とされてきましたが、頭部の大きさや尾部の形状にも様々な異常があることが分かりました。
③頭部空胞
精子が成熟すると、頭部に収納されたDNAを保護しているタンパク質がプロタミンに変わります。このプロタミンを染色すると、頭部が青色に染まり、空胞が白く抜けて見えます。写真の精子は、選別後にもかかわらず、ほとんどの精子に大小の空胞が見られます。現状では、頭部に空胞がある精子を効率良く排除できる技術はありません。そこで、選別後の精子に空胞が存在する割合や大きさを調べることは大変重要です。
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