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耳の内視鏡手術…体の負担や入院 減る

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 鼓膜の奥の手術は一般的に、耳の後ろを切開し、骨に穴を開けて行う。耳を切るため、患者への負担は大きい。こうした課題を克服しようと、耳の穴に入れる内視鏡を使った「内視鏡下耳科手術」が新たな治療法として広がり始めている。(森井雄一)

耳の内視鏡手術…体の負担や入院 減る

 若い頃から中耳炎を繰り返してきた群馬県伊勢崎市の新井あい子さん(81)は50歳代の時、鼓膜に穴が開き、手術を受けた。その後、しばらく調子は良かったが、5年ほど前、耳が聞こえにくくなった。

 地元の耳鼻科で診てもらうと、右耳の鼓膜が破れていた。さらに、左耳には「中耳真珠腫」ができている可能性があると指摘された。中耳真珠腫とは、鼓膜付近に炎症が起き、周辺の骨を溶かすなどして真珠のような塊ができる病気だ。放置すると、めまいや顔面神経まひ、髄膜炎などを引き起こす恐れがあり、できた真珠腫を取り除く必要がある。

 新井さんは手術を受けるのをためらった。すると、次男が、体への負担が少ない治療を行う病院はないか調べてくれた。山形大学病院(山形市)が積極的に耳の治療に取り組んでいることを知り、2015年秋に受診した。

  耳の後ろ切らず施術

 検査を受けると、内視鏡を使った手術で治療できる可能性があると説明された。直径2・7ミリの内視鏡と手術器具を耳の穴の中に入れ、モニターに映し出された拡大画像を見ながら、手術を進める。全身麻酔で行うが、耳の後ろは切らずに済む。手術後の痛みも少ない。

 新井さんは16年1月、この手術を受けた。右耳に、別の場所から採取した組織を入れて、破れた鼓膜を修復。3月には、左耳の鼓膜をめくり、奥にできた真珠腫を取り除いた。新井さんは「耳を切る手術は嫌だった。麻酔から覚めると、周囲の音がよく聞こえるようになり、若返ったようだ」と喜ぶ。

 耳を切る場合、2週間程度、入院する必要がある。内視鏡を使った手術だと治りが早く、数日程度の入院で済むことが多い。

  患部取り残し少なく

 これまでは、治療を行う場所によっては光が届かず、難しい手術になるケースもあった。新たな方法だと、患部に、より近づくことができ、死角がなくなるという。国内で初めてこの技術を取り入れた山形大耳鼻咽喉科教授の 欠畑かけはた 誠治さんは「真珠腫を取り残してしまうことは少なくなり、再発を減らせる」と説明する。

 内視鏡を使った手術は、中耳真珠腫のほか、鼓膜に穴が開いて難聴や耳鳴りなどの症状が出る慢性中耳炎、耳の中の骨が変形して音が伝わりにくくなる耳硬化症などが対象となる。ただ、患部の位置や大きさにより、対応できないこともある。その場合は、これまでと同じように、耳を切開する手術を実施する。

 耳の中は狭く、手術は高度な技術が必要だ。このため、大学病院など、一部の病院でしか受けることはできない。日本耳科学会によると、18年時点で、耳の手術を行う病院の約7割で内視鏡手術が実施されていた。欠畑さんは「研修会を開くなどし、内視鏡手術ができる医師をさらに増やしていきたい」と話している。

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