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リングドクター・富家孝の「死を想え」

コラム

なぜ膵臓がんは「最悪のがん」なのか?

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 先日、元関脇・逆鉾の井筒親方が死去しました。まだ58歳の若さで、死因は 膵臓(すいぞう) がんと発表されました。私は、死因を聞いて「またか」と思いました。3年前に亡くなった元横綱・千代の富士の九重親方を思い出したからです。九重親方も膵臓がんで61歳の若さで逝きました。あの、アップル社長のスティーブ・ジョブズ氏も膵臓がんで、56歳で亡くなっています。

膵臓がん四つの悪条件

なぜ「膵臓がん」は最悪のがんなのか?

 膵臓がんは、がんのなかで「最悪のがん」とされ、発見されたときは手遅れとされます。「早期発見がしにくい」「転移しやすい」「治癒が難しい」「生存率が低い」と、四つの悪条件がそろったがんです。

 多くのがんは治る病気になってきたというのに、膵臓がんだけは例外で、5年生存率はステージ1で40.1%、ステージ4になると1.5%、全症例で9.2%<全国がん(成人病)センター協議会の生存率共同調査:2017年4月発表>となっています。しかも、最近は、罹患者数も死亡者数も年々増えているのです。

 膵臓というのは、多くの人にとって普段は意識することが少ない臓器で、その機能についてはあまり知られていません。昔は「 五臓六腑(ごぞうろっぷ) 」に入っておらず、江戸時代後期の医学書『 医範提綱(いはんていこう) 』で初めて紹介されたと、医学生のとき教えられました。

 しかし、膵臓は極めて重要な臓器で、主に二つの機能を持っています。一つは、胃酸で酸性になった食べ物を中和する「膵液」を分泌して消化を促すこと。もう一つは、インスリンやグルカゴンなど血糖値を調節するホルモンを分泌して全身のバランスを保つことです。

体の深部にあって、症状は進行してから

  膵臓は、胃の裏側の体の深部にあり、消化液を運ぶ膵管が張り巡らされています。膵臓がんの9割以上が、この膵管の細胞にできるので発見しづらいのです。そのうえ、膵臓がんは、特徴的な自覚症状がありません。進行した場合、症状としては、腹痛、 黄疸(おうだん) 、腰や背中の痛み、食欲不振、体重減少などが挙げられますが、胃炎や膵炎の場合も同じ症状になります。

 そのため、膵臓は「沈黙の臓器」と呼ばれ、よほどがんが進行しないと検査に至らないのです。また、最初に行われる「エコー」(超音波検査)では、胃や腸のなかにあるガスや体内脂肪の影響で観察しづらいのです。

 2016年1月、ジャーナリストの竹田圭吾さんが、やはり膵臓がんで亡くなっています。彼が残した著書を読むと、ふだんから健康に気を使い、定期的に人間ドックを受けていたにもかかわらず、がんは発見されませんでした。自覚症状が出て精密検査をし、初めて診断されたのですが、そのときは、もうがんはかなり進行していたといいます。

CT検査は比較的有効だが

  最近では、「CT」(コンピューター断層撮影)が比較的有効とされています。ただし、撮影のために使用する「造影剤」には、副作用リスクがあり、気軽に受けるべきではありません。

 一般的にもっとも有効なのは、「MRI」(磁気共鳴画像)を利用した「MRCP」(磁器共鳴胆管膵管造影検査)という検査です。しかし、自覚症状がなく、疑いがないのにこれを受ける人はいません。

 最近では、より高度な検査方法として「内視鏡的逆行性胆管膵管造影」(ERCP)や「超音波内視鏡」(EUS)がありますが、実施している医療機関が少ないうえ、費用が高額です。

予防は糖尿病に注意をすること

  膵臓がんの治癒が難しいとされるのは、膵臓が胃や腸と違って筋肉層がないことが、大きく影響しています。筋肉層がないので、いったんがん細胞が増殖を始めると周囲の臓器に浸潤しやすいのです。膵臓は十二指腸、 脾臓(ひぞう) 、胃などに接しているほか、周囲に 腹腔(ふっくう) 動脈などの重要な血管やリンパ節が集まっています。そのため、がんは速いスピードで他臓器に転移していきます。

 では、膵臓がんにならないために、なにか有効な手立てがあるのでしょうか?

 データから言えるのは、糖尿病になるような生活習慣をしないということです。膵臓がん患者の26%は糖尿病患者というデータがあるからです。

 糖尿病の男性は、膵臓がんの発症リスクが健康な人に比べ2.1倍、女性でも1.5倍高いとされています。膵臓がんの原因は、ほとんどが膵炎です。膵炎は、血液中に糖分が増えることで起こります。

 ということは、糖尿病を予防するような食事や運動などで生活習慣を改善するように心がけることが、「最悪のがん」の予防になるということです。(富家孝 医師)

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富家 孝(ふけ・たかし)
医師、ジャーナリスト。医師の紹介などを手がける「ラ・クイリマ」代表取締役。1947年、大阪府生まれ。東京慈恵会医大卒。新日本プロレス・リングドクター、医療コンサルタントを務める。著書は「『死に方』格差社会」など65冊以上。「医者に嫌われる医者」を自認し、患者目線で医療に関する問題をわかりやすく指摘し続けている。

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