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【1】ギャンブルの沼 2 「ギャンブル依存」は病気だったの!?

シリーズ「依存症ニッポン」

「ギャンブル依存」は病気だったの!?(中)意思の力では抜け出せない深い沼から

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「迷い」と「葛藤」、「自己否定」と「悲観」

 紀子さんが参加したのは、ギャンブル依存の家族の自助グループだが、そこでは自身の内面と向き合うことも求められる。最初にやってきたのは、自分の半生を振り返る苦しみだった。常にギャンブルに囲まれて生まれ育ってきた自分の環境に対して、自虐的な感情ばかりが次々に芽を吹いてきたのだ。

 「自分なんて生まれてこなければよかった」

 夫も同じだったようだ。

 「彼も幼い頃から、人間関係で生きづらさや息苦しさを背負って生きてきたと思います。それがギャンブルへの依存となって表れたのかもしれません」

 紀子さんは自助グループに通いながらも、破滅的な考えに支配されそうになることもあった。落ちるところまで落ちているのだから、とことん行ってしまえ――。迷いと葛藤、自己否定と悲観……。まったく身動きが取れなかった。苦しみながら、自分を見直し、何を求め、何が足りないのかを問い続けた。

 夫は順調に回復していると思われた。競艇からは離れていると安心していたら、今度は内緒で外貨投資のFX取引を始め、再び借金を背負っていた。「正当な経済行為だ」と本人は主張するものの、ギャンブルへの欲求を満たすためであることは明らかだった。ギャンブルの沼は、想像以上に深かった。

 そんな日々から抜け出すのに、4年もの月日を費やした。それでも、何とかギャンブルの呪縛から自由になっていた。夫は競艇、それに外貨投資への依存を止め、それを現在まで積み重ね続けている。苦労に苦労を重ねて、なんとか借金もゼロに戻した。

 「ギャンブル依存」は病気だったの!?(中)意思の力では抜け出せない深い沼から

 ギャンブル依存は、アメリカ精神医学会がアルコールや薬物などよる「物質関連障害および 嗜癖(しへき) 性障害群」と同様に分類する疾病(disorder)だ。

 ギャンブルをやらない人は、「なぜ、すっぱりやめられないのか」と理解できない。だが、ギャンブルを続けることで、過剰な刺激を受けた脳内の神経路である「報酬系」に異常をきたしていることははっきりしている。

 例えば、同じ報酬系への刺激物質である覚醒剤などの依存に陥った人が、なかなか離脱できず、再発を繰り返すことをイメージすれば、ギャンブルも意志の力で抜け出せるほど簡単なものではないことは想像できるはずだ。

「ギャンブル依存」は病気だったの!?(中)意思の力では抜け出せない深い沼から

4年がかりで依存を断ち切り、笑顔の田中さん夫妻

 では、田中さん夫妻を救ったのは何か?

 一つは「やり直したい」という強い気持ちだった。ギャンブル依存を抱えながら結婚をしたことで、同時に守らなければならない家族もできていた。自分でなく、「自分の一番大切なものを守る」との思いは、どんな苦しみにも耐えうるエネルギーになる。

 もう一つは、自分と同じ境遇の仲間たち。紀子さんがつながっていた自助団体には、家族のギャンブル依存に苦しみ、悩んでいる人がたくさん参加していた。自分同様に女性ばかりだった。一人一人が孤独と不安の中にいながら、互いに声を掛け、相談に乗り、励まし合っていた。

 「このメンバーがいなければ、私が苦しみの中から抜け出せたかどうかわかりませんでした」

 家族と仲間――。本当の苦難に襲われたとき、人間は一人ではいられない。

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染谷 一(そめや・はじめ)

読売新聞東京本社メディア局記者
 1988年読売新聞社入社、出版局、医療情報部、文化部、調査研究本部主任研究員、メディア局専門委員などを経て、2021年5月からメディア局メディア編集部記者。

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