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コラム

『いのちは輝く わが子の障害を受け入れるとき』 松永正訓著

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分娩室で起きている厳しい現実と葛藤

『いのちは輝く わが子の障害を受け入れるとき』 松永正訓著

 一つのいのちが生まれ出るとき。苦しいときを越え、安らかにほほむ母、あふれる涙に戸惑う父、喜びの言葉を交わす家族たち……。多くの人は、幸せに満ちた妊娠・出産の場面を思い浮かべるだろう。しかし、 分娩(ぶんべん) 室の中では、想像もできない厳しい現実との葛藤も、日々繰り広げられている。本書は、2017年10月から1年半にわたり、ヨミドクターに連載され、配信を含め1億ページビューを超えた人気コラム 「いのちは輝く~障害・病気と生きる子どもたち」 に加筆、修正を施して出版されたものだ。

 第1章の冒頭(連載初回)には、腹壁破裂で小腸が体外に飛び出した状態で生まれた赤ちゃんが登場する。手術でおなかに収めることができたが、面会した家族からは悲鳴のような声が上がる。赤ちゃんには、両手両足に指が6本ある先天奇形があったからだ。父親は「人工呼吸器を外してほしい」と願い出るが……。

 幸せな瞬間を迎えるはずだった家族に、突如として過酷な試練が訪れる。計り知れない落差に直面し、だれもが混乱し、取り乱す。口唇口蓋裂の赤ちゃんに救命のための手術をすることを拒否した家族、脳に重い障害を負った息子の命をつなぐ気管切開の穴をふさごうとした母親……様々な事例が取り上げられる。そのどれもが、「ひどい家族」「冷酷な親」なのではない。筆者は、「わが子に重い病気や障害が降りかかったとき、両親がその苦痛を受容するためには、いったん絶望の底まで落ちなければいけないのかもしれません」と語る。

 そして、暗闇に一筋の光を見いだし、一歩一歩、明るい場所へと進んでいく家族のストーリーも、本書には数多くつづられている。染色体異常の13トリソミーで、「1歳まで生きられる可能性は10%」と宣告されながら、同じ障害の子と家族たちとの出会いをきっかけに希望と明るさを手にしていった親子、「障害児を生んでごめんね」と夫に言ったが、命の危機を越えて19歳になった娘を前に、育ててよかったのは「かわいいままで止まっていること」と話した母親……。

障害とは何か、人間とは何か

 出生前診断などの技術が進み、「生命の選別」が可能な時代となった。連載を愛読いただいた椎名林檎さんが、帯の推薦文で「やさしい哲学書」と評したように、本書に記された家族たちの小さな歴史、その一つ一つが、「障害とは何か、人間とは……」という根源的な問いを浮き彫りにし、私たちに突きつけている。(梅崎正直 ヨミドクター編集長)

 (中央公論新社 1600円税別)

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