産業医・夏目誠の「ハタラク心を精神分析する」
医療・健康・介護のコラム
50歳部長、40歳のつもりでバリバリ働くが 高血圧でダウン、さて、どうする
製作機器メーカー販売部長の青木太郎さん(50、仮名)が毎年行われる「ストレスチェック」を受けると、「高ストレス状態」の判定でした。「バリバリ働いているのに。おかしい。間違っているんだ」と部長は、産業医の高ストレス者面談にやってきました。
「高ストレスではない」と抗議
私 : 「高ストレス」ですね。簡単に説明をさせてください。
(部長は納得がいかない様子です)
青木部長: なぜ、高ストレス判定なのか、納得できないので来たんですよ。
私 : 検査結果から、そう判断したのです。
(結果を見せながら)
仕事で求められることが過剰で、自覚症状が高得点、さらに職場のサポートがないという3点ですね。
青木部長: 自覚症状ですか?
私 : イライラや過労などの症状が出ていますよ。
青木部長: たまたま、その時、多忙だったから。
私 : そうですか。
青木部長: 仕事をガッチリして、実績もあげている。ラクビーで10年間、鍛えた体です。
私 : 無理をしていると思います。
青木部長: 無理している?
40歳の自己イメージで長時間労働
私 : 長時間労働をしていますね。
青木部長: 部長だから当然だろう。
私 : 50歳ですね。過度に疲労がたまっていますよ。
青木部長: 僕はね、40歳と思ってやっているんですよ。
私 : 40歳と言える根拠はあるのでしょうか?
(体に力が入って、顔面が紅潮気味)
青木部長: 40歳と思えば40歳です。
私 : 50歳は50歳ですけどね。
青木部長: 本人が40歳だと思ってやっているんだから、それでいいんじゃないですか。
私 : その思い込みが疲労を増やし、ひいては過労、病気につながるのですよ。
青木部長: 今まで病気したことがないんだから。大丈夫ですよ。
私 : もう少し素直になったら、どうでしょうか?
青木部長: 医者は仕事の現場をわかっていませんね。部長が頑張らなければ実績は上がらない。企業は生き残れないんですよ。
コレステロールも血圧も高い
私 : 健康あっての仕事です。多面的に理解するために健康診断結果を見てみました。コレステロールも血圧も高いですね。ご存じですよね。これ以上無理してはいけないと体が発するSOSサインですよ。
青木部長: そんなことは聞いてません。
私 : 健康診断を受けていますね。その時に、保健相談を受けなかったんですか?
青木部長: 健康なのに、なぜ相談に行かなければならないの?
私 : 生活習慣を見直して健常状態にするための大事な相談ですよ。
青木部長: 健康だし、実績もあるんだから、文句はないでしょう。
時間外労働を40時間以内に
私 : やれやれ
青木部長: ストレスはないでしょう。
私 : 体からSOSのサインが出ています。無理をしないようにとね。まず、時間外労働を40時間以内にしてくださいね。
青木部長: そんなことしたら実績は上がりませんよ。
私 : 実績ですか。健康あっての青木さんですよ。わかってくださいね。
青木部長: もう少し、今のままで行きますよ。
私 : 3か月後に、もう一度来てくださいね。
青木部長: 忙しいんですけどね。
私 : 血圧が気になりますので、ぜひ。
自信家の青木部長です。家庭ではどうなのでしょうか。妻はどう考えているのでしょうか。本人の言動から再現します。
自信過剰よ、妻もヘキエキ
青木部長: 高血圧なんて俺らしくない。
妻 : 誰でも病気になりますよ。
青木部長: 俺は別格だ。
妻 : 病気に例外はないのよ、あなた。変な自信、おかしいですよ。
(彼は妻にも、強気で)
青木部長: なんでだ。
妻 : すぐムキになる。
青木部長: 性格だ。
妻 : 少しは、人の話も聞いてよ。あなた、部下の話を聞かないでしょう。
青木部長: うるさい。
妻 : 子どもみたい。
青木部長: うーん。
妻 : でもね。あなた一人の体ではないのよ。家族への責任があるのよ。私や子どもへの。
青木部長: そうだな。
妻 : 働きすぎよ。残業時間を減らせないの?
青木部長: うーん。
妻 : 健康第一。それが責任よ。
青木部長: わかった、わかったよ。
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