森本昌宏「痛みの医学事典」
頭痛、腰痛、膝の痛み……日々悩まされている症状はありませんか? 放っておけば、自分がつらいだけでなく、周囲の人まで憂鬱にしてしまいます。それだけでなく、痛みの根っこには、深刻な病が潜んでいることも。正しい知識で症状と向き合えるよう、痛み治療の専門家、森本昌宏さんがアドバイスします。
医療・健康・介護のコラム
風が吹いただけで激痛 帯状疱疹は治ったのになぜ?…年齢高いほど神経痛のリスク
前回コラムでも触れた「帯状 疱疹 後神経痛」(post-herpetic neuralgia、頭文字をとってPHNと呼ぶ)。私たちのペインクリニックには、「ヘルペスのブツブツが治って1年以上もたつのに、まだ痛みが続いているんです」と、受診する患者さんが後を絶たない。
帯状疱疹(ヘルペス)は、 水痘 (水ぼうそう)ウイルスの回帰発症(再び暴れ出すこと)によって起き、そのウイルスが 末梢 神経を食い荒らす。そして、帯状疱疹が治り、水疱(水ぶくれ)が 痂皮 (かさぶた)となって脱落する発症後約1か月頃、食い荒らされた末梢神経が枝を出している部位に、新たな痛みが生じることがある。これが帯状疱疹後神経痛であり、それまでとはまったく性質の異なる激烈な痛みが出現する。
発症年齢高いほど神経痛に
帯状疱疹自体は10歳代と50歳以降に多くみられるが、若い患者がこの神経痛を生じることはほとんどなく、発症時の年齢が高いほど神経痛への移行率が高くなる。たとえば、60歳代では6割、70歳代では7割といった具合に、である。
不幸にして神経痛に移行した場合は、「ピリピリ」「チカチカ」とした持続的な痛みが一日中続き、その上に「えぐられるような」「電気が走るような」発作痛が加わる。さらには、痛みのある部位をつねっても針で刺しても痛くなかったり、風が吹いただけで鋭い痛みが誘発されたりという不思議な状態になる。この状態は、障害を受けた末梢神経のみならず、脊髄にも変性が起き、局所の組織の酸素が欠乏することによってもたらされる。「複合性局所 疼痛 症候群」など、他の神経障害性疼痛にも共通してみられる特徴である。このように、帯状疱疹による痛みと帯状疱疹後神経痛とでは、成り立ちが異なるのである。
昭和を代表する女流歌人のひとりである齋藤史は、80歳近くになって「帯状疱疹後神経痛」に苦しみ、それを短歌に詠んだ。
-ヴィ-ルスはしづかに栄え 電流のごとき痛みに我をいたぶる-(齋藤史)
1 / 2
【関連記事】
予防接種の紹介がありませんが
cobaco
あるところに引用されていたので、記事を拝読いたしました。私は、ある医師から、帯状疱疹には50歳以上であれば、不活化された生ワクチンによる予防接種...
あるところに引用されていたので、記事を拝読いたしました。私は、ある医師から、帯状疱疹には50歳以上であれば、不活化された生ワクチンによる予防接種ができると伺いましたので、この記事に書かれた帯状疱疹後神経痛がとても怖かったため、予防接種を受けました。なぜ、この記事では森本先生は、この予防接種を紹介されなかったのでしょうか。もし、森本先生が、この予防接種に否定的なお考えであれば、そのお考えも合わせて記事ににしていただきたかったと思います。
つづきを読む
違反報告