夫と腎臓とわたし~夫婦間腎移植を選んだ二人の物語 もろずみ・はるか
医療・健康・介護のコラム
「腎移植後、相手のことが嫌いになったらどうする?」…質問への私の答え
深夜にガバッと起き、自分の頬をバンバンたたいた私
移植前の夫と私はまさに“病めるとき”にぶち当たり、家庭に不穏な空気が流れることもしばしばあった。妻の病を、夫が一人で引き受けてくれていたのだから。
腎機能が低下し、代替治療をしないと生きられなくなった私は、「こんな私、消えてなくなればいい」と言って、オイオイ泣いた。スマートフォンを床に投げつけたこともある。口癖は「疲れた」と「消えたい」。
深夜にガバッと起き出して、自分の頬をバンバンたたいたことも……。正気の沙汰じゃなかったが、それでも夫は私から離れようとせず、「大丈夫。大丈夫だから」と言って、私が眠りに落ちるまで、全身をマッサージしてくれたのである。平日のど真ん中、早朝4時の出来事だった。
現在の私は、人が変わったように穏やかだ。口癖は「しあわせだね」。最近のお気に入りは東京・永田町。自宅から1時間かけて夫と徒歩で向かい、「昼間は暑くなるね」とか言いながら、たっぷり汗をかいて、得意の「しあわせだね」を連呼している。「はるかさん、明日はどこ散歩する?」夫も楽しそう。家庭に花が咲いたようだ。
経験者の「しあわせな顔」 それが移植医療の成果
「怖くなかったですか?」
と聞かれたことがある。学生さんからされた質問だ。
「腎移植後、夫さんのことが嫌いになっても別れられないから」
恋愛至上主義の若者らしく、倫理観を飛び越えたピュアな質問である。
これには、「考えもしなかった!」というのが私の本音だ。ドナーとレシピエント(臓器受給者)の関係は、一線を越えたような関係で、血と血が混ざり合い、溶け合うような愛が体内に流れているのだと思っている。もちろん救った人より、救われた人の方が、何十倍も 想 いは強いだろう。夫から 三行半 を突きつけられないよう、妻としてしっかりせねば。
今月、患者会「あけぼの会」の創立20周年記念パーティーが東京・新宿で開かれる。夫婦間腎移植を受けたドナーとレシピエントもたくさん来られるだろう。お会いするたびに胸がいっぱいになる。「顔に、しあわせって書いてあるなぁ」と。今、患者がどんな顔をしているか。それこそが移植医療の成果であるように思う。(もろずみはるか 医療コラムニスト)
監修 東京女子医科大学病院・石田英樹教授
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