のぶさんのペイシェント・カフェ 鈴木信行
医療・健康・介護のコラム
医師とコミュニケーションを図るための四つのステップ
いきなり「要望書を渡す」のはハードルが高い人に
「のぶさん。この前コピーをもらった医師への要望書を実家の母に見せたんだけど、こんなに詳しい内容は書けないって、苦笑いされちゃって……」
のぶさんと常連客から呼ばれているカフェのマスター。彼が丁寧に 淹 れてくれたブレンドコーヒーをすすりながら、先週末の母との会話の結果を打ち明けた。
のぶさんが自分で書いて主治医に渡したという「要望書」は、自分の人生観を医師に提示するという斬新な考え方に基づいている。しかし、それを文字にして表すということは、「普通の」一人の患者である母にとっては、かなりハードルが高いようだった。
「そりゃ、息子が、急に人生観うんぬんと言い出したら、お母さまも驚かれたでしょう?」
のぶさんは笑いながらそう言う。しかし、母がそれなりに高齢になってきたいま、私は真剣に焦っている。
飲み残した薬の数を会話のきっかけに
「前に、私のお薬手帳を見せたでしょう?」と、のぶさん。飲み残した薬の数や、医師から説明を受けた治療方針や指示などについてのメモが書き込んであった、アレだ。
「最初は、家に残っている薬の数を、病院へ行く日の朝にチェックしてお薬手帳に書き込むことから始めるといいですよ。それならお母様もできるでしょう?」
なるほど。まずはお薬手帳を使って、飲み残した薬の数や理由を話のきっかけにしようという作戦か。確かに、いきなり人生観を書き出して主治医に見せようとは、母にはハードルが高すぎたかもしれない。段階を追って慣れていくということだな。
「特にご高齢の方は、 身体 のことを医師に任せてしまう傾向があって、先生にお任せしますなんて言う方もいて……」。まさに母のことだ(笑)。
「自分がどうしたいなんて、なかなか言葉に出せない、いや、考えるということに気づかないんですよ。だから、まだ体が元気な段階で、医師に自分の希望を伝えていくことに、少しずつ慣れていくといいと思いますよ。私もそうだったし」
最終目標は自分の人生観を伝えること
のぶさんが考えている段階とはこんな感じだ。
1・残薬の数や症状など、現実に起きていることをお薬手帳に書き込む2・それを医療者へ見せる
3・診察室や薬局で聞きたいことや考えていることを事前にメモする
4・診察室や薬局で言われたことをその場でメモする
私ならば、1から3まではできそうだが、医師に自分の意見をあまり言えない母には1がやっとかもしれない。実家に顔を出すたびに、新しいことにチャレンジしてもらうよう、提案しよう。
「最終目標は、自分の人生観を、医師や薬剤師にきちんと伝えて、それに基づいた治療を受けることなんですよ」
がんを患っているというのぶさんは、明るく言う。 「まぁ、本当は『最終』なんてないですよね。だって、人生はいろんなことが起きますから。自分が期待する人生なんて、しょっちゅう変わりますから」
確かに私だって、いまは妻と娘のためにがむしゃらに働くオヤジだが、定年が近くなってきて、この先は何をしていくか自分でも見えていない。大学をまもなく卒業する娘がどういう生活を送っていくかでも、私の人生は変わる気がする。しかし、だからこそ、妻や母や、そして医師たちと、自分たちの人生観を分かち合っておくことが大切なのかもしれない。それが、自分の人生を楽しむ 秘訣 のようだ。
まずは家族に伝えてみよう
「自分のしたいことをはっきりと周りに伝えておくと、みんなが協力してくれるものですよ。」
のぶさんが言うと、カウンターの隣の席に座っていた初老のご婦人が声をかけてきた。
「私ものぶさんのおかげで、この店で 素敵 な方々と出会えて、楽しく毎日を過ごしているんです」
そういえば、のぶさんのやりたいことや生きがいは、人と人をつなげることだと前に言っていた。このご婦人は、きっと共感してこの店に通い、誰かとつなげるサポートをしているのかもしれない。のぶさんの言う通り、自分の生き方を伝えると、それに合った人たちが集まるのだと感じる。
まずは、家に帰ったら、妻と娘に「妻と娘のためにがむしゃらに働くオヤジ」の宣言をしてみよう。実家の母とは、お薬手帳を一緒に見てみることにしよう。
もう、カフェの外は暗くなってきた。
帰り際、のぶさんがイベントのチラシを私に手渡した。「いまこそ、患者協働の医療の実現を!2019 ~患者と医療者の“協働できる”つきあい方」とある。自分の人生観を、医師や薬剤師にきちんと伝えることで医療が始まるのを「患者協働」と言い、それをみんなで考えるイベントらしい。11月3日か、行ってみるかな。
https://amcop20191103.peatix.com/
下町と言われる街の裏路地に、昭和と令和がうまく調和した落ち着く小さなカフェ。そこは、コーヒーを片手に、 身体 を自分でメンテナンスする工夫やアイデアが得られる空間らしい。カフェの近所の会社に勤める49歳男性の私は、仕事の合間に立ち寄っては、オーナーの話に耳を傾けるのが、楽しみの一つになっている。
(※ このカフェは架空のものです)
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