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思春期の子どもを持つあなたに 関谷秀子

医療・健康・介護のコラム

第9部 摂食障害(上)「自分を磨くため」のダイエットが「食べることが怖い」に。中3女子の内面に起きたこと

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お父さんのような価値のある人間に

 診察室でA子さんは、「自分が友達にどう思われているか気になって……。自分磨きのためにダイエットを始めたんです。ところが、理由はわからないんですが、いつからか無意識に食べるのが怖くなってしまいました。私は太るのは嫌だけど、痩せすぎるのも嫌なんです。だから頑張って食べてはいるけど……」と話し始めました。

 そして、「どうして食べるのが怖いのかわからないんです」と付け加えました。

 もう少し話を聞くと、「頑張って勉強したのに、お父さんと決めた第一志望の中学に入れなかった。そこから自分に自信がなくなりました」と打ち明けました。さらに涙ぐみながら「あまり勉強をしたくないときでも、お父さんが力を貸してくれたので、なんとかなりました。勉強をすれば、お父さんが褒めてくれるからうれしい」とも。

 クリニックでの診察は3回でしたが、いつも父親の話が中心となりました。

 私が「お父さんはどんな人なの?」と尋ねると、「すごい努力家です。毎朝ラジオを聴いて、英会話の勉強をしていますし、自分を磨くためにクラシックを聴いたりもしています。私も頑張って、お父さんのような価値のある人間になりたい」と、やはり涙ぐみながら答えました。

 A子さんが父親に対して、強い愛情や尊敬、それに憧れの感情までを持っていることが、彼女の涙からも伝わってきました。

 彼女の言葉通り、教育熱心な父親は小学校時代から娘2人の勉強を熱心に見ていました。A子さんの姉は、そんな父親に対して小学校高学年の頃から反発するようになったそうです。中学を卒業すると、すぐに海外に留学してしまった理由のひとつは、父親を避ける意図があったようです。

 姉がいなくなってからは、父親の関心がA子さんに集中しました。

 学校の試験前には、父親お手製の試験問題を作ってくれます。おかげで、A子さんの成績はいつも学校でトップでした。

自信を見せたかと思うと、今度は自己否定

 姉妹は小さい頃からピアノ教室に通っていました。さらに、学生時代にテニス部だった父親の希望で、2人ともテニスも習っていました。

 中学校になると、姉はテニスをやめて吹奏楽部に入り、A子さんだけが父の勧めに従ってテニス部に入りました。毎週末、父娘でテニスに行き、A子さんの試合前になると、早朝練習にも父親が付き合っていました。

 ピアノについても、A子さんは「お姉ちゃんよりも、私のほうが才能あるってお父さんは言ってくれるんです」とうれしそうに話します。

 さらに、私が母親について尋ねると「がさつな性格で、私のほうが掃除や片付けもずっと上手です。お母さんのようにはなりたくない」と手厳しく言いました。

 ところが、その直後に「だけど、私なんか全然ダメ。受験も失敗したし、本当はテニスもピアノも全然、才能ないんです」と急に自己否定を始めました。

 A子さんの「自分自身」についての評価は不安定で、「自分に自信がない」ことの裏側には、複雑な気持ちが隠れているように思われました。それを本人は意識していないようです。継続的なカウンセリングを行うことも考慮されましたが、この時点ではきちんと登校できていることや、身体的に大きな問題は認められないことなどから、今は学校生活を優先し、カウンセリングについては時期をみて再度、検討することになりました。(関谷秀子 精神科医)

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shisyunki-prof200

せきや・ひでこ
精神科医、子どものこころ専門医。法政大学現代福祉学部教授。初台クリニック(東京・渋谷区)医師。前関東中央病院精神科部長。

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