精子に隠された「不都合な真実」
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不妊治療は平均実績じゃない! 「私たち夫婦にとって何がいいか」がすべて
加齢の影響少ない男性 勃起不全治療薬で高齢でも射精可能
一方、男性に目を向けると、正常な方は毎回数億匹もの精子を射精します。おそらく生涯で1兆匹以上造りますので、卵子のように途中まで造っておいて備蓄するということはできません。精子の元になる細胞から、そのつど精子を造ります。産生量は加齢により減少しますが、女性の閉経のようにはっきりした終わりはありません。
以前は、勃起しなくなることが生殖期間の終了を意味する場合が多かったのですが、現在はバイアグラのような勃起不全治療薬の登場により、かなり高齢の方でも射精ができるようになりました。
お子さんがいる、ある60歳以上の男性が再婚されて、新たに子を望まれたので、精液検査を行ったことがあります。この方の若い時の精液を見ていないので、精子の量と質が加齢でどれくらい変化したかはわかりませんが、検査結果は素晴らしいものでした。事実、再婚後にお子さんができました。
これを機に私どもは、お孫さんがいる65歳、68歳の男性2人から精液を提供していただき、精子を選別して解析しました。写真は、そのうちのお一人(68歳)の精子を色素で染めたものです。頭部は 楕円 形で、空胞も少なく、運動性も良好であり、もうお一方も同様な結果でした。
女性が50歳前後で閉経を迎えるのに対し、造精機能が正常な男性では、たとえ一部の精子が加齢で劣化したとしても、なにしろ数がいるので大勢に影響はありません。60歳代後半になっても加齢を感じさせない精子に、研究チーム一同脱帽でした。
造精機能に問題あると治療困難な例多く
今回、初めに申し上げた「男のつらさ」というのは、年齢に関係ありません。いったん精子の状態が悪いことが発覚すると、治療が困難な場合が多いということです。その背景には、前回のコラムでお話しした遺伝子の問題があります。
妊娠は夫と妻の共同作業であり、いくら妻側の治療がうまくいっても、夫側に問題があれば妊娠率は上がりません。毎日、研究していて感じるのは、精子の状態が良い方と悪い方の差が大変大きいことです。
今後は、精子としての平均実績をひとくくりで評価するのではなく、「私たち夫婦の精子ならば、この治療により、どのくらい妊娠するか」を考えるべきです。男性不妊の問題は、みなさんが思っているよりずっと深刻なのです。(東京歯科大学市川総合病院・精子研究チーム)
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