陽子のシネマ・クローゼット
医療・健康・介護のコラム
人生の幕を閉じるとき、あなたは何を望みますか?…「人生をしまう時間」

患者のもとへ向かう小堀鴎一郎医師(C)NHK
“理想の最期”は、「在宅死」なのか。『人生をしまう 時間 』は、大きな反響を呼んだ、NHK BS1スペシャルのドキュメンタリー番組『在宅死 “死に際の医療”200日の記録』を再編集し映画化。
一人ひとりの人生の最期に向き合う2人の医師。病院の医療現場ではうかがい知れない、在宅医が接する患者の事情はさまざまだ。家族関係や経済力、決してきれい事ではない厳しい現実が立ち塞がる。それでも、患者が望む穏やかな看取りをかなえるため、模索し、力を尽くす訪問診療チーム。カメラが捉えたのは、いくつもの命の終えん。胸をつくシーンが、見る者の死生観を新たにする。
望み通りの最期に必要なのは…
どんな人にも必ず死が訪れるのに、なぜか人ごとのように目をそらしがちな終末期。自身の“命のしまいかた”を、はたしてどのくらいの人がイメージできているのだろうか。
日本は、医療費抑制などのために「病院死」から「在宅死」へ促す政策をとってきたが、「在宅死」の選択は決して簡単ではない。病院であれ、在宅であれ、患者の家族は残り少ない命を前にして、いかに後悔なく看取れるかに頭を悩ませ、日々立ちはだかる問題に直面し、不安に押しつぶされそうになる。「在宅死」を選ぶには、信頼できる訪問診療チームが地域に存在するかどうかがカギになる。つまり、望む最期を迎えられるために必要なのは、場所ではなく、人なのではないか。
エリート外科医が転身
小堀鴎一郎医師、80歳。自ら軽自動車のハンドルを握り、行き交う地域の人々と声をかけあい、一軒一軒、患者の家を訪問診療でまわっている。名前の鴎の字は、明治の文豪で軍医でもある祖父、森鴎外からもらった。代々、医をなりわいとする名門に生まれた小堀医師は、かつて東大病院のエリート外科医だった。年間千件以上の手術に執刀する、まさに“病気を診る職人”だったと、自身を省みる。
定年後、これまでとは対極にある在宅医療の現場へ転身。そこで初めて、患者とその家族が抱える人生の奥深さに接して、好奇心をかき立てられる。やがて、一人ひとりの人生の終わりに何ができるのかに心を砕き、“人を診る”名医に。訪問先では、洗練された巧みなコミュニケーションで、患者の体調や家族の精神状態などをさりげなく観察し、状況を聞き出す。事情がわかれば、機転を利かせ、自ら対応するフットワークの良さは、全く年齢を感じさせない。
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