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うんこで救える命がある

コラム

新聞で「病院が減る」って聞いたけど、なぜ?

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「2025年問題」が来る!

 皆さんは「2025年問題」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。戦後間もない1940年代後半にたくさん生まれた世代は「団塊の世代」と呼ばれ、その団塊の世代が全員75歳以上となる超高齢社会を迎えるのが、2025年頃なのです。75歳を超えると人は病気になりやすくなるため、医療・介護の必要性が急激に増加するとみられています。

 2025年を過ぎると一部の大都市圏を除いて高齢化はピークを迎えますが、一方で急激な人口減少期に突入することが統計データから予想されています。この頃になると、年間に約159万人が亡くなると予想されていますが、これは現在の神戸市の人口に相当する数です。2060年までには3700万人余りの人口が減少する計算ですが、これは現在のカナダの人口に相当します。2025年以降はこうした規模の人口が消滅するほどのインパクトが、日本を襲ってきます。

 人口が右肩上がりに増えていた時期は、とにかく病院を増やして医師を増やすことで、医療の質を上げることができた時代でした。しかし今後は、現在の病院の数が必要なほどの医療需要はなくなるため、病院や医師をはじめとする医療資源の「選択と集中」が必要となることが予想されているのです。つまり、2025年前後に団塊の世代へのケアで一時的に医療介護の需要が増えるからといって病院や医師をとにかく増やしてしまうと、その後の各地の急激な人口減少によって必要のない病院や医師が出てきてしまう可能性があるのです。

医師不足も病院が減ると解決するかもしれない

 「各地で医師が不足している」というニュースを、新聞紙面などで見たことがある方も多いと思います。こうした医師不足の解決方法として、医学部の定員増や地域枠の確保など、医師の数を増やすという話が出ることが多いのですが、その延長線には、必ず「医療資源の配置が最適化されているのか」という議論がついて回ります。

 たしかに現在の日本では、人口10万人あたり医師数が、経済協力開発機構(OECD)が示す世界の平均に比べて下回っていると指摘されています。僕自身も現役医師の一人として医師の絶対数が足りていないという感覚がありますので、もう少し医師を増やす政策は必要だと考えています。ただ今後、人口が減少することや現在の社会保障費が増えていくことを考慮すると、医師を増やし続けることだけが最善の解決方法なのかどうかは、疑問が出てきます。

 たとえば、ある地域Aで「外科医師が足りない」という問題があったとします。これまでの医療提供の体制は、可能な限り各地域で同じ医療が提供できるように、手術ができる病院をすべての地域に散在させていました。この中には、年間に手術を500例行う施設もあれば、10例のみ行う施設もあったと思います。当然、手術の受け入れ可能な病院ごとに外科医が必要で、さらにすべての病院で当直待機が必要となるため、すべての地域で夜間に外科医が当直しているような状態になります。

 たしかに医師を増やし続けることで、地域の外科医師を大量に確保できる可能性もあります。しかし、増えた医師が外科医になるかどうかは不明ですし、外科医が地域に均等に配分されるとも限らないのです。

 そこで、厚生労働省が進めている政策が、病院の機能を分けて連携を推進する「地域医療構想」という方法です。先ほどのある地域Aの場合、10例しか執刀していない病院同士が連携し、一つの病院に手術機能は集約させて、残りの病院は手術した後に引き受けるリハビリ専門の病院に転換するといったことが行われたとします。集約化が進んだ結果、この地域には手術を受け入れる病院は減ったため、一つの病院に2倍の外科医師を配置して余裕を持った働き方をしても、地域単位で考えた場合の必要医師数はぐっと減ることが予想されます。

 そもそも患者さんの数が減ってくる時代には手術が必要な患者も減るため、手術件数も病院の数も維持できないことが予想されています。そのような時代には、医師をはじめとする医療資源を、いかに効率的に集約化して適切に配置していくかが重要になってきます。地域によって人口の変動具合が違うため、必要な医療資源の 按分(あんぶん) が大きく異なることが予想されます。地域ごとに将来推計を行い、調整を進めていますが、世の中、推計の通りには進まず、難しい点もたくさんあり、予想しているような病院の減少には至っていません。

 これから大きく変化していく医療の需要と供給のバランスを取っていくには、今回お伝えしたように、「病院の数をコントロールして供給側の調整で考える」という方法が考えられます。あるいは、 前回の記事でお伝えしたように、「ゲートキーパー」と呼ばれる仕組みを使って、本当に必要な時にだけ外科医が出動できるようにする、つまり「需要側を調整する」方法もあります。そのほかにも、たとえば1人の患者に対して複数の医療専門職が連携して治療やケアにあたる「チーム医療」を推進することによって、外科医がやらなくてもいい業務をほかの職種がカバーしていく「タスクシフティング」など、病院単位のマネジメントでできる対応策もあります。

 人口減少期における医療資源の配分は、まだ世界が見たことのない事態です。なにか決定的な解決案や魔法の (つえ) のようなものがあるわけではありません。複合的な対策で、地域ごとに急激に変化していく医療介護での需要の変化に対応してはじめて、適切な解決に向かうと僕は考えています。

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ishiyousuke_prof

石井洋介(いしい・ようすけ)

 医師、日本うんこ学会会長

 2010年、高知大学卒業。横浜市立市民病院炎症性腸疾患科、厚生労働省医系技官などを歴任。大腸がんなどの知識の普及を目的としたスマホゲーム「うんコレ」を開発。13年には「日本うんこ学会」を設立し、会長に就任。現在は、在宅医療を展開する山手台クリニック院長、秋葉原内科saveクリニック共同代表、ハイズ株式会社SHIP運営代表、一般社団法人高知医療再生機構特任医師。著書に「19歳で人工肛門、偏差値30の僕が医師になって考えたこと」(PHP研究所)など。

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1件 のコメント

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医療の質の変化と医師やスタッフの変化

寺田次郎 関西医大放射線科不名誉享受

都心部の不動産価格の高騰も凄まじいですし、AIやITの影響も無視できません。 その中で、医師の在り方、スタッフの在り方、病院やクリニックの在り方...

都心部の不動産価格の高騰も凄まじいですし、AIやITの影響も無視できません。
その中で、医師の在り方、スタッフの在り方、病院やクリニックの在り方も変わるでしょう。
とりわけ、都心部と非都心部では大きく変わりますね。

また、ハレの日とケの日ではないですが、災害時や繁忙シーズンの為の余剰戦力やそれらの生活や能力の維持のためのシステムも考えておく必要があります。
育児出産、休眠医師、休眠看護師などの問題も含めて、法改正や再教育を考えていく必要があります。

一方で、適性や意思の問題も含めて、医学部を卒業しても医師にならないケースも今後増えるのかもしれません。
それは悪い事ではなく、医療と一般社会の繋がりよろしく、働き方や繋がり方の多様性に向かうのではないかと思います。

保険診療、混合診療、自由診療の比率もそうですし、医療や観光の国際化の影響もあります。
どうしても日本の医療、保険診療の枠だけで考えてしまいがちですが、人材や医療の社会との様々な繋がりを考えれば、より大きな視座とのバランスも大事になってきます。

今後、画像診断の重要性は増しますし、かかりつけ医の弱点を補う補完的なシステムの創出は大事になると思います。
産科などの重症や救急医療のセンター化には、その前の振り分けの高度化による救急を準緊急に持ち込むシステムが大事です。
特にインフラの弱い地域の患者の不利益を減らすために。

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