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心療眼科医・若倉雅登のひとりごと

コラム

年金は目減りするからと、納付をやめてはいけない!

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年金は目減りするからと、納付をやめてはいけない!

 最近、経済成長が今後一定以上あっても基礎年金(国民年金)の受給額は実質目減りするとか、夫婦の老後資金について「(60代の夫婦があと30年生きるとすると)不足額は約2000万円」などと、日本の年金制度への信頼度を低下させるような数字があちこちで報道されています。

 しかし、信頼度が低下するからといって、未納にしていると大変なことになる事例があります。

 Tさんは一人っ子でスポーツ好きの明るい男子でしたが、父親の家庭内暴力が元で両親が離婚するなど家庭の事情もあって、次第に父だけの家に寄り付かなくなりました。高校を中退し、アルバイト暮らしをしていました。23歳になった1年前、仲間の紹介で飲食店にパートで勤めるようになり、将来、料理人になるための貯金も始めました。

 ところが、数か月前から両目の視力が低下しだし、ある病院で視神経炎と診断され治療が行われましたが、視力は低下し続けたため、当院の神経眼科外来を紹介されました。遺伝子検査を含む原因検索の結果、レーベル遺伝性視神経症だとわかりました。これは、両目の視神経が次第に 萎縮(いしゅく) し、元に戻りにくくなる病気です。Tさんの矯正視力も、両目とも0.01になってしまいました。当然、飲食店での仕事はほぼ不可能です。

 彼の場合、経済的には実家に頼ることができませんでしたので、障害年金を申請できる程度に視力障害が高度だから、「これを申請しましょう」と提案しました。ところが、Tさんは厚生年金に加入しておらず、国民年金の保険料も支払っていませんでした。

 国民年金に関する被保険者の届け出書などは日本年金機構から自宅に届いていたようですが、関心がなく放置していたそうです。しかも、未納の保険料を遡って納められる原則の2年間もとっくに過ぎていました。親と連絡も取れず、もはや生きる最低限の収入もなくなり、せっかくためていた貯金も底をつきました。もはや生活保護を申請するしか道はなくなってしまいました。

 生活保護は、日本国憲法25条で保障されている生存権に基づく制度で、生活扶助、住宅扶助、教育扶助、医療扶助など8種類の必要な扶助が受けられる制度です。ただし、親や兄弟など扶養義務者からの援助の可否や、土地や建物を含む資産の有無、量などを調査されたうえで、いかなる自力の手段も利用できない場合に認められる、国に依存する最終手段です。

 できることなら、生活保護に頼る前に可能な限り自力で生存、生活したいものです。障害年金は、義務化されているとはいえ自分のための保険と同じことですから、病気や障害でこれを利用するのは自力による自己防衛といえます。そして、おそらく民間の保険よりずっと利用しやすいお得な制度のはずなのです。

 自分の人生で何が起きるかわかりません。目減りするとはいえ老齢年金も兼ねている障害年金だと思えば腹も立たない保険制度ですから、納付をやめてしまうという選択肢はありえないと私は思います。

 (若倉雅登 井上眼科病院名誉院長) 

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201505_第4回「読売医療サロン」_若倉

若倉雅登(わかくら まさと)

井上眼科病院(東京・御茶ノ水)名誉院長
1949年東京生まれ。北里大学医学研究科博士課程修了。グラスゴー大学シニア研究員、北里大学助教授、井上眼科病院副院長を経て、2002年から同病院院長。12年4月から現職。日本神経眼科学会理事長、東京大学医学部非常勤講師、北里大学医学部客員教授などを歴任。15年4月にNPO法人「目と心の健康相談室」を立ち上げ副理事長に就任。「医者で苦労する人、しない人 心療眼科医が本音で伝える患者学」、「絶望からはじまる患者力」(以上春秋社)、「心療眼科医が教える その目の不調は脳が原因」(集英社)、医療小説「茅花流しの診療所」、「蓮花谷話譚」(以上青志社)など著書多数。専門は、神経眼科、心療眼科。予約数を制限して1人あたりの診療時間を確保する特別外来を週前半に担当し、週後半は講演・著作活動のほか、NPO法人、患者会などでのボランティア活動に取り組む。

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