産業医・夏目誠の「ハタラク心を精神分析する」
医療・健康・介護のコラム
子どもの入浴時間に合わせて帰る若手、中高年社員との世代間ギャップ、どうする
若手が増えて職場の空気が変わった、と課長
私 : 「高ストレス状態」ですね。自覚症状がかなり出ていますよ。
課長: そうでしょうね。職場で若手とベテラン社員がうまくいっていません。
私 : そうですか。
課長: わが社では多忙時は、社員全体で当たるのが普通でしたから。
私 : そうですね。
課長: 突然と言いますか、若手社員が増えた去年ぐらいからガラッと雰囲気が変わりました。まだ仕事が残っているのに、若手の社員は早く帰ってしまうんですよ。エッという感じ。
私 : なるほど。
課長: カルチャーショックですよ。時代は変わったと思いましたよ。
私 : なるほどね。
課長: これも時代ですかね。
仕事を残したまま帰る若手
課長: 若手に残ってほしいと言っても、子どもをお風呂に入れる時間に間に合わなくなるからと、さっさと帰ってしまうんです。
私 : う~ん。
課長: 残ったベテラン社員はどうなるんだと、初めはあきれていたんですが、しだいに怒りが湧いてきました。
私 : 怒った?
課長: と言うよりは、あきれた。でも、何度もあると不満が出てきますよ。
私 : それがストレスですね。
課長: そうです。時期を待てない業務は若手社員にも「業務命令」で残業としてやってもらっています。それ以外の場合、解決策が見つからないですよ。若手と話したいと思って、飲みに誘ったのですが、「家事をしなければならないので」と断られた。これもショックで。
世代間の溝は深い
私 : ショックですね。
課長: 何とか飲みに行けた若手2人と話をしましたよ。
私 : どうでしたか?
課長: それとなく、「仕事だからと。ベテランも残ってしているので協力してよと。それが社風ですよ」と言ったんですよ。
私 : それで。
課長: 彼らは「そんなお説教をされても、今どき会社中心の考えには無理がある。ベテラン社員の奥さんは専業主婦。我々は全員、共働きで、妻も正社員ですから」と主張しますね。
私 : 割り切っていますね、若手は。会社、仕事が第一ではないですね。
課長: そうです。課内で私は浮いているのかなぁ。
私 : 浮いてなくても、ピンチはピンチですね。
世代間の問題は増えている
若手とベテラン社員との仕事に対する価値観やライフスタイルの相違が浮き彫りになった事例です。課長は、両者の調整で悩んでいます。
このような職場内葛藤は増加の一途です。背景にあるのは女性の本格的な職場進出です。この15年くらい顕著です。事例のように専業主婦の妻がいる中高年社員と、正社員などで働く妻を持つ若手では、ライフスタイルも価値観も違います。
専業主婦なら家事や子育てなどは本業で、夫は働くのが中心と、役割分担があります。一方、共働きの場合は、家事も育児も、2人でするのが普通になっています。
この世代間ギャップが表面化するのは、業務多忙時やトラブルが生じた時です。それが大事な業務なら、上司の業務命令で対応できますが日常となると問題が生じますね。
夫婦2人の話し合いで乗り越えていく
本当は職場全体の働き方が、共働きでの家事や育児を前提にした形になればいいわけですが、今はまだ、会社では旧来の働き方やライフスタイルの違う世代が共存しています。その中で現実的に対応していくには、基本は夫婦二人の話し合いしかないようですね。状況に応じて、2人にとって何が大切か、優先順位を検討し、どのように家事・育児を分担していくか考えていくことになるでしょう。

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夫婦2人ともキャリアも大切にしたい、だが根底は子ども優先、ということであれば、時代により環境に変化を求めることは必須。転職を視野に入れることも考えてよいのでは。リモートワークが難しい仕事であれば、帰れる方が帰る、2人とも重なるなら送迎をシッターさんに頼むなど、夫婦間のコミュニケーションを徹底するしかない。会社にいることを重視する会社に夫婦とも勤めているのはつらい。そして、そんな会社は若手が離職し、きっと衰退するだろう。
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