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訪問診療にできること~最期まで人生を楽しく生き切る~

介護・シニア

肺炎、在宅治療で回復し、入院で寝たきりになる危険も

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肺炎、在宅治療で回復し、入院で寝たきりになる危険も

写真 幡野広志

 2人の88歳の女性は、いずれも僕が訪問診療におうかがいしている方です。

 鈴木ヨシさん(仮名)は、息子さん夫婦と暮らし、絵手紙と押し花が趣味。3年前に左大たい骨を骨折してから、一人で外出することが難しくなりました。軽度の認知症もあり、要介護3と認定され、自宅で療養生活を送っていました。

88歳、肺炎で入院を選んだ人と在宅治療を選んだ人

 昨年の10月、朝から元気がないことを心配した家族から連絡があり、往診しました。体温は38度。聴診すると右の肺に雑音があり、血液の酸素の濃度(動脈血酸素飽和度)もいつもより少し低く、状況から肺炎と診断しました。食事はできており、本人の意識もはっきりしています。在宅での治療は十分に可能だろうと考えましたが、息子さん夫婦は、肺炎ならば病院でしっかりと治療をしてほしいと強く希望され、同日、かつて通院していた近くの総合病院に緊急入院することになりました。

 中村貞子さん(仮名)は、都営住宅で高齢のご主人と2人暮らし。5年前に脳 梗塞(こうそく) を起こし、左半身が不自由ですが、家の中ではかろうじて自力で動くことができます。軽度の認知症もあり要介護3の状態で、ご自宅で療養生活を送っていました。

 昨年の11月、ご主人から「様子がおかしい」と連絡があり、往診しました。体温は37.4度と微熱でしたが、いつも食欲旺盛な貞子さんが、その日の朝は大好きなだし巻き卵に手をつけなかったそうです。右の肺で少し雑音が聞こえ、呼吸の回数はいつもより少し多めでした。念のために血液検査を実施したところ、強い炎症反応を認めました。状況から肺炎と診断しました。

 貞子さんはポツリと「もう入院はしたくない」と言いました。ご主人は貞子さんがそう言うのであれば自宅でみてあげたい、と。食欲がないのが少し心配ですが、入院せずに、ご自宅で治療を試みることにしました。

2人の肺炎患者は大きく異なる経過に

 ほぼ同時期に肺炎になってしまった2人。入院したヨシさん、入院を拒んだ貞子さん。それぞれ大きく異なる経過をたどることになります。

 入院したヨシさんは、食事が止められ、点滴が始まりました。肺炎の治療は順調に進みましたが、点滴治療が1週間目を迎えたころ、下痢が始まりました。点滴の治療が終わったら食事をスタートする、という話になっていましたが、長引く下痢と腹痛のため、食事を再開できませんでした。

 下痢の原因を調べたところ、便から特殊な細菌が見つかりました。抗菌薬の投与に伴う腸内細菌のバランスの崩れから起こる「偽膜性腸炎」という病気でした。肺炎は改善していましたが、今度は偽膜性腸炎の治療が始まりました。

 それから2週間後、下痢は止まりました。しかし、体力を失ったヨシさんは、食事をすることができなくなっていました。摂食機能を調べるために、 嚥下(えんげ) 造影検査を実施したところ、食べたものが気管に入りこんでしまうことがわかりました。ペースト食でもむせてしまって、口からはほとんど食べることができません。

 しかし、ヨシさんとご家族は、胃ろうなどチューブによる栄養を希望しませんでした。そして2週間後、点滴をつけた状態でヨシさんは自宅に帰ってきました。

入院した女性は退院後、寝たきりに

 退院初日、往診にお伺いしました。5週間の入院で、ヨシさんは完全な寝たきりになってしまっていました。足の先から股関節まで、足は一本の棒のように硬く固まってしまい(関節拘縮)、足を曲げることも、立ち上がることもできません。認知症も進行してしまったのか、受け答えも上手にできません。

 ご自宅で点滴の治療を継続するため、連日、訪問看護師さんに支援に入ってもらうことになりました。その後、ヨシさんは要介護5と認定され、自宅での生活の継続が困難となり、高齢者施設に入所されました。

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佐々木淳(ささき・じゅん)

 医療法人社団悠翔会理事長・診療部長。1973年生まれ。筑波大医学専門学群卒。三井記念病院内科、消化器内科で勤務。井口病院(東京・足立区)副院長、金町中央病院(同・葛飾区)透析センター長を経て2006年MRCビルクリニック(在宅療養支援診療所)設立。2008年、団体名を悠翔会に改称。首都圏12か所で在宅療養支援診療所を運営する。

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