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訪問診療にできること~最期まで人生を楽しく生き切る~ 佐々木淳

医療・健康・介護のコラム

肺炎、在宅治療で回復し、入院で寝たきりになる危険も

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在宅治療の女性は元気に回復

 一方、自宅での生活を続けながら、肺炎の治療を行った貞子さん。抗菌薬の投与が始まると、心配していた食欲も徐々に改善し、口からとれる食事や水分の量も増えてきました。初日は、抗菌薬を注射で投与しましたが、2日目からはそれを飲み薬に切り替えました。そして、1日1回の抗菌薬を5日間ほど飲むと、貞子さんはすっかり元気を取り戻し、翌週にはデイサービスの利用を再開することができました。

 治療開始前、肺炎のため強い炎症反応を認めていましたが、1週間後には炎症反応も大きく低下、内服治療も終了しました。現在もこれまでと変わらない自宅での生活を継続されています。

高齢者は10日の入院で、7年分の老化に相当する筋肉を失う

 多くの方は「何かあれば入院したほうが安心だ」と思っています。確かに、入院したほうが、病気を治し、命を守れる確率は高くなります。しかし、高齢者は 脆弱(ぜいじゃく) です。入院のストレス、あるいは治療の影響で身体機能・認知機能が低下してしまい、「病気は治ったけど、生活や人生を失ってしまった」という人も少なくありません。

 入院による身体機能・認知機能の低下を「入院関連機能障害」と言います。要因は大きく二つあります。

 一つは、環境変化のストレス(リロケーションダメージ)。入院したことによって「せん妄」が起こったり、認知症がある方は症状が悪化したりすることがあります。自分の置かれた状況が分からなくなり、治療に抵抗すると、手足をベッドに縛り付けられたり、薬剤による鎮静が行われたりすることもあります。

 もう一つは、医原性サルコペニア(医療が原因で起こる筋肉量の減少)。食事を止めて点滴にすると、あっという間に栄養状態が悪化します。その状態でベッドの上で長時間安静にして過ごすと、筋肉の量が急速に失われ、関節も固くなっていきます。高齢者は10日間の入院で7年分老化が進行したのと同じだけ筋肉を失う、という報告もあります。

肺炎での入院、死亡や要介護度悪化の危険も

 僕たちのグループ(医療法人社団悠翔会)で、肺炎で入院した高齢者の入院前後の要介護度の変化を調べたことがあります。その結果、肺炎で入院した高齢者は、入院中に3割弱の方が亡くなられ、退院できた方も、要介護度が「1.72」悪化していたことが分かりました。

 高齢者にとって「入院できたら安心」というのは、果たして真実でしょうか。入院しても亡くなるかもしれない。退院できたとしても、要介護度が悪化し、元の生活には戻れなくなるかもしれない。入院によって病気を治す。これは命を守るためにとても重要なことです。しかし、入院という選択にもリスクがあり、「入院できたら安心」とはいかないこともあります。多少、治療の成功率は下がるかもしれないけれど、生活を継続しながら、自宅で治療をする、という選択肢もあります。そのことも含めて、どうするか考えてみてもいいと思います。(佐々木淳 訪問診療医)

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佐々木淳(ささき・じゅん)

 医療法人社団悠翔会理事長・診療部長。1973年生まれ。筑波大医学専門学群卒。三井記念病院内科、消化器内科で勤務。井口病院(東京・足立区)副院長、金町中央病院(同・葛飾区)透析センター長を経て2006年MRCビルクリニック(在宅療養支援診療所)設立。2008年、団体名を悠翔会に改称。首都圏12か所で在宅療養支援診療所を運営する。

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