医師が教える「女と男、髪と地肌の話」 田中洋平
医療・健康・介護のコラム
髪が抜けやすい人にも、身体的特徴が……
前回は、体を守ってくれている頭髪の大切さについて触れました。
私のクリニックは、長野県の松本城のすぐそばにあります。お城の内部には非常に狭く、急な傾斜の階段がありますので、思わぬ転倒や滑落によって、当院を受診される患者さんは少なくありません。
頭部に外傷があれば、まず意識状態、異常、 嘔吐 、 麻痺 を確認し、必要があれば救急か脳神経外科で診察していただきます。大きな問題がなければ、すぐに傷の処置を始めます。頭を打っても、擦り傷や切り傷を負っても、おしなべて頭髪がたくさんあった患者さんの方が症状は軽いのは間違いありません。やっぱり、医学的にも髪は大切なのです。
人間が薄毛になるのはなぜ?
そうは言っても、普段はそんなことを意識していないと思います。
「髪が医学的にも重要? それよりも、やっぱり見た目でしょ」
ほとんどの方は、そう考えているはずです。
生まれて間もなく生え始める髪は、長い間、その人の顔のイメージに重要な役割を果たします。長さや色、スタイルを問わず、自分の個性の一つと認識していますので、こだわりがあるのは当然です。自分らしさを強調し、それを維持するために、毎月のようにカットをしたり、ときにはカラーをしたりします。
「髪は見た目のため」と考えるのは当然です。
男女を問わず、年齢を重ねていけば、どうしても髪のハリやツヤは失われていきます。とくに男性の中には、ホルモンの関係で抜けやすくなり、頭部が寂しくなったことで、かつての自分とは違ったイメージになってしまい、「なんとかしたい」と考える人が少なくありません。
薄毛の原因は、ヘアサイクルの短縮です。つまり、「抜け毛の増加」と「新たに生える毛の減少」は、加齢によるホルモンの変化が主な原因で発生します。自然に回復するとは考えにくく、ほとんどの場合は進行していきます。
男性、および閉経後の女性の場合、血液中の男性ホルモンの「テストステロン」が毛根で変化し、「ジヒドロテストステロン」 に変わります。この「ジヒドロテストステロン」こそが、薄毛への決定的な悪役で、抜け毛を増加させる張本人です。それに加えて、外傷などの外的要因、ストレスによる内的要因によっても、慢性的な血流低下による毛根環境の悪化が引き起こされ、脱毛が進むと同時に、発毛は妨げられてしまうのです。
最近では、ジヒドロテストロンをブロックして抜け毛を予防する内服薬や、養毛・育毛に効果がある薬剤もありますので、それについてはおいおいお話していきたいと思います。
「今は大丈夫」でも、要注意な人
さて、毛根周囲の血流が低下して、頭皮が薄くなると、毛根に十分な栄養が行き渡らず、さらに薄毛が進行します。
今現在、頭髪がしっかりあっても、要注意な人はいます。
- 目を酷使する
- おでこの筋肉を使って眉毛を持ち上げることが多い
- 緊張することが多い
- ストレスをたくさん抱え、それを上手に克服できない
- 夜に十分な睡眠をとれていない
いずれも、頭皮の血流が低下しやすい状態です。やがて頭皮が薄くなり、薄毛が進行する可能性が高いです。
意外と知られていませんが、実はまぶたも重要な要因になります。
腫れぼったかったり、厚くて硬かったり、または皮膚が伸びてきて目を開けにくい状態のまぶたの人は要注意です。このような人の場合、目を開いた状態を維持するために、交感神経を緊張させる必要があります。それによって、頭痛、肩凝り、冷え性、不眠、イライラ、腰痛、便秘、まぶしさ、ドライアイ、 顎 関節痛、 鬱 などの症状が出やすくなります。
これらも、毛根周囲の血流を低下させ、薄毛を促進する可能性があります。
とはいえ、まぶたの特徴は生まれつきである人がほとんどです。交感神経の過緊張によって生じる症状に慣れているため、普段はあまり苦にしていないようです。ここが落とし穴になる可能性があるのです。
このような人は、加齢とともに皮膚が伸びてくることで、さらにおでこの筋肉を使って眉毛を持ち上げないと視野を確保するのが辛くなりがちです。そうなると、さらに毛根の血流は悪化しますし、自然に改善することはありません。
中には、加齢と共にまぶたが持ち上がりにくくなる「 眼瞼 下垂症」を起こしている可能性もあります。これは緩んでしまったまぶたを開くための筋肉を本来あるべき位置に戻す、「眼瞼下垂症手術」で回復します。このような症状に悩んでいる方は、QOL(生活の質)の向上に加えて、薄毛予防のためにも治療を考えることをおすすめします。
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自分が形成外科を初期研修で回っている時に、形成外科は体表外科なんだと教わりました。 その頃はわかりませんでしたが、内科系放射線医学=画像診断学で...
自分が形成外科を初期研修で回っている時に、形成外科は体表外科なんだと教わりました。
その頃はわかりませんでしたが、内科系放射線医学=画像診断学での勉強を続けるうちに、一部の皮疹が潰瘍性大腸炎などの消化管疾患と関連があることを知りました。
そういう目で見ると、裏表ひっくり返せば、消化管と皮膚は連続性が一番強い臓器です。
身体の中の表面と、身体外面の表面の違いに過ぎません。
いずれ、各診療科の縦割り、横割りも変わってくるのかもしれないですね。
髪は長い友達と書きますが、髪の毛だけで、体や心がわかる時代も来るのかもしれません。
心療内科のキャッチフレーズは心身一如ですが、心と体が一つなら、体内と体外も運命共同体です。
心も体も救われる社会になるといいですね。
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