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「続・健康になりたきゃ武道を習え!」

コラム

「空手をやめたい」と言った息子 見事に復活、黒帯に導いたものは?

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 「空手をやめたい」
 極真会館総本部代官山道場の黒帯として、今は生き生きと稽古を続けている 尾上(おのえ)(げん)() 君(12)だが、かつて、そう真剣に悩んだことがある。

4級までは順調に昇級 その後、雲行きが怪しく

 代官山道場の前身にあたる恵比寿道場に入門したのは、4歳だった2012年5月。以来、楽しく稽古を続け、翌年の3月に初めての昇級審査を受けて、10級、オレンジ帯になった。

 多くの空手の流派では、帯の色が強さや上達度の目安になる。昇級すると、帯の色が変わっていく。極真空手の場合、入門したばかりの無級が白帯、10級と9級がオレンジ、8級と7級が青、6級と5級が黄、4級と3級が緑、2級と1級が茶、初段以上が黒帯だ。

代官山道場責任者の赤石誠さんと玄樹君(2018年6月)

代官山道場責任者の赤石誠さんと玄樹君(2018年6月)

 玄樹君は6歳だった14年3月、それまでの8級から飛び級して6級になった。4月に小学校に入学し、6月に5級、10月に4級と、順調に昇級した。ただ、このあたりから雲行きが怪しくなってきた。母親の ()() さんからみて、どうもやる気が感じられないのだ。

上級者の責任感とプレッシャーで追い詰められ、スランプに

 小学2年生になった15年6月、3級に昇級。この年の8月、恵比寿道場が代官山のビルに移転し、代官山道場になった。翌9月に開かれた総本部内部試合では、玄樹君は型の部で2位、組手の部では1位を獲得した。

「K-1」でも活躍したブラジルのフランシスコ・フィリオ師範と玄樹君(2018年4月、ともに尾上さん提供)

「K-1」でも活躍したブラジルのフランシスコ・フィリオ師範と玄樹君(2018年4月、ともに尾上さん提供)

 このころ、玄樹君の道場での立ち位置は、いつの間にか変わっていた。上級者として、みんなの前に出て見本を示すこともある。責任感が芽生え、同時にプレッシャーも感じてきた。

 先ほど「帯の色が強さや上達度の目安になる」と書いたが、それは武道の世界ではとりもなおさず、「帯の色が道場内での上下関係を決める」という意味でもある。たとえ自分より年上で体が大きい道場生でも、級が下なら後輩だ。自分の方が先輩である以上、組手で相手の勢いに押されたり、まして、負けたりするわけにはいかないのだ。

 「先輩として頑張らなければ、という気持ちがどんどん強くなって、その分、追い詰められている感じがした」「なんとなく、空手が嫌になっていました」。玄樹君はそう振り返る。

 昇級審査も受けたくなくなり、16年3月の審査は受けなかった。週に4~6コマ(1コマ約1時間)は出席していた稽古は、2、3コマに減った。完全なスランプ状態だった。

練習不足で試合もボロ負け 号泣

 その様子を見て、母親の侑紀さんも悩み、自問自答した。

 子どもの成長と、空手における昇級と、どう折り合いを付けたらいいのか。
 この子にとって、空手とはどういう意味があるのか。
 母親の私はこの子に何を求め、どうなってほしいのか。

 そして、16年9月に行われた総本部の内部試合。玄樹君は、型の部でも組手の部でも入賞できなかった。こんなことは初めてだった。

 試合後、代官山道場責任者の赤石誠さんに結果を報告しに行くと、こう聞かれた。

 「どのぐらい練習してた?」
 「週2回です」と玄樹君。
 「そうだね。それでは勝てないよ」

 そして、赤石さんはこう言った。
 「負けた後の行動がいちばん大事だよ」
 玄樹君は号泣して帰宅した。

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山口 博弥(やまぐち・ひろや) 読売新聞東京本社編集委員

 1962年福岡市出身。1987年読売新聞社入社、岐阜支局、地方部内信課、社会部、富山支局、医療部、同部次長、盛岡支局長、医療部長を経て、2018年6月から編集委員。同年9月から1年間、解説部長も兼務。医療部では胃がん、小児医療、精神医療、慢性疼痛、医療事故、高齢者の健康法、マインドフルネスなどを取材。趣味は武道と映画観賞。白髪が増えて老眼も進行したが、いまだにブルース・リーを目指している。

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2件 のコメント

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個人と組織と人間関係での悩みの重要性

寺田次郎 六甲学院放射線科不名誉享受

酔った勢いで書いてしまいましたが、どこにでもある人間や人間社会の問題です。 個と組織の仕事の理解やエゴというものは本当にカオスで、短期間でやる仕...

酔った勢いで書いてしまいましたが、どこにでもある人間や人間社会の問題です。
個と組織の仕事の理解やエゴというものは本当にカオスで、短期間でやる仕事と中長期的にやる仕事はしばしば乖離します。

敗北を喫した後輩達には反省してほしいわけですが、いわゆる反省をさせるというよりは、主体的に自分たちの長所や短所を見つめて、来シーズンが本格化する春先までに個々で積み上げて行ってほしいわけです。
医学部ですから、そういうのを求めていない、求められない選手もいるわけですが、皆ひっくるめて医学部サッカーの文化です。

主力がフィジカルコンディションを戻せば、どこかの大会で優勝争いはできるわけですが、それで満足してほしくないとも思います。
相手もこちらの対策を練るでしょうし、昨季より怪我人も増えるかもしれません。

Jユースや強豪校や県選抜出身者などの個の才能だけの世界ではなく、その後の努力が大きいと信じている選手の多いチームは強い世界なので、そうあってほしいです。

本文とも重なりますけど、この達成目標というのも難しいですよね。
模範的な役割や達成した目標を本人や周囲がどう思うか?
(実は、白帯のままで、生涯スポーツとして空手を楽しんだ方が幸せかもしれませんよね。
また、彼の活躍の影で悩んでいた他の選手や家族もいるでしょう。
そういう部分が、一時彼を悩ませていたのであれば、それもまた今後の人生の糧であり、空手の価値です。)

決まった答えないよなあ、とか思いながら、いっそ近所のサッカー部でサッカーを教えて彼らを煽る方が効率的なのかなとも思います。
願望や指導内容を強く伝えてしまう時もありますが、彼らがどうやって主体的に取り組んでくれるか、頭を悩ませています。
とっくの前から、いわゆる指導より誘導の価値が言われている教育です。

僕は間違いなくサッカーバカの範疇ですが、治し方がわかりません。

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競技との長い付き合いの中で気付くこと

寺田次郎 関西医大放射線科不名誉享受

未熟者にスランプ無し、ということは凄く頑張っていたわけです。 一方で、ちょっと空手が上手と言っても、ただの人間、ただの子供。 オーバータスクの中...

未熟者にスランプ無し、ということは凄く頑張っていたわけです。
一方で、ちょっと空手が上手と言っても、ただの人間、ただの子供。
オーバータスクの中での逃避は当たり前。
様々な感情や思考を呑み込んでいくには時間がかかります。

いまサッカーを教えている医学生さんも、似たような状況で、西医体優勝、全国準優勝の結果が出た中で、何人かが引退し、昨季の幹部学年がアツかった反動で、いま、少し難しい状況にあります。

準備不足でも全国準優勝で、さらに準備不足の秋の大会は一回戦負けでしたが勝ちあがれそうでした。
その状況下でも勝てそうだったことを選手やチームが前向きにとらえてくれたらとは思います。

純粋な逃避、なんとなくの雰囲気、一生懸命やる事への恥ずかしさ、良い方向であっても変化への恐怖、様々な要因が個人や組織を襲います。
そういう意味で、目に見える結果以上に、己に克つという部分は大きいわけですが、多くの人は目に見える順位や結果にとらわれ、その中で難しい状況が生まれます。
普通の目に見えないものが動かしている結果のなんと多い事か、なんてわかる人にしかわかりません。
親御さんも必ずしも、継続を推奨できる人でもないでしょう。

僕はヘボサッカーはやめろと中高生の間両親に言われ続けて育ったためまだ辞めていませんが、普通なら辞めてます。
代わりに、その辺の教授が一生をかけて不可能な仕事を4年で済ませ放射線科強制引退。
嫌がる子供に強制するのも良くないですし、本当に嫌なのかどうかを問うてやるのは良い事です。

実は僕に対する態度も後輩によって違います。
僕には肩書もありませんから、資料と文字と実技と実感で彼らを納得させられなければ無力です。

僕がサッカーをやめていない理由はサッカーと仕事しか社会との接点がないせいですが、この子にとっても何らかの意味を持つといいですね。
空手の勝利だけではなく。

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