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食べること 生きること~歯医者と地域と食支援

健康・ダイエット

口から食べるために胃ろうの活用を

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 大橋洋平さん(84、仮名)は脳梗塞発症後、病院で胃ろうを作って退院しました。病院の検査では「口から食べるのは難しい」と判断されていましたが、妻の加代子さん(76、同)には少しでも食べてほしいという気持ちがあり、ケアマネジャーを通して僕に訪問依頼が入りました。

 初回の訪問時、快活な加代子さんが玄関まで迎えに来てくれました。挨拶もそこそこに、「主人ね、まったく食べられないし飲み込めないって言われていたんですけどね、最近 口腔(こうくう) ケアでぬらしたスポンジブラシを口の中に入れるとチュパチュパ吸おうとするのよ。これって飲み込めるってことですよね。少しでも食べられるといいと思うんだけど。先生どうかしら」。

 まだ、僕はご本人に会っていなかったので苦笑い。加代子さんの速射砲が終わると同時に奥のリビングに到着。広いリビングの一角に電動ベッドがあり、そこに洋平さんが横たわっていました。

胃ろうで栄養を取り、晩酌でおつまみを楽しむ

口から食べるために胃ろうの活用を

 「大橋さん、はじめまして。歯医者の五島です」と声をかけると右手を軽く上げて応えてくれました。さっそく口の中を拝見すると上下総入れ歯でとてもきれいに保たれています。振り向くと加代子さんがゼリーを持って立っています。「先生、病院でこういうゼリーを紹介されたことあったの。これどうかしら」。飲み込みの悪い方でも飲み込みやすく作られたゼリーです。自分でも持ってきていたのですが、せっかくなのでそれを使用することに。

 洋平さんの上半身をベッドアップし、足の位置を整えて、「大橋さん、これはテストです。ちょっと食べてみましょう。無理だったら出してもいいですからね」と言って、ティースプーンに軽くよそったゼリーを口の中に運びました。最初はあまり口が動かず、沈黙が続きましたが、5秒ぐらいするとモグモグと動いてゴクッと飲み込みました。

 「飲み込みの反射はありますね。動きはまだまだ鈍い感じがしますが、無理せず少しずつ食べる訓練をしましょう」

 それから1年後、朝は胃ろうで栄養を取り、お昼は、洋平さんの車椅子を加代子さんが押して、近所の喫茶店で甘いゼリーを夫婦で分け合って食べています。帰宅後は胃ろうを使い、夜は晩酌をしながら軽くつまみを食べるという生活になりました。

口から十分な栄養が取れるようになったら胃ろうを外す

 「胃ろう=口から食べられない」という間違った常識が胃ろうのイメージを悪くしているように思います。洋平さんは現在でも充実した日常を送られていますが、胃ろうがなければ今の生活はありません。

 口から食べるという行為には体力が必要です。健康な方は食べることに苦痛を感じませんが、風邪などで高熱が出て体調が悪いと、食べること自体つらくなると思いませんか。口から食べたいという方こそ体力と栄養が必要なのです。口から食べることが難しくなり、「胃ろう(のような経管栄養)拒否」すると、栄養不良になり、口から食べるのがさらに難しくなってしまうのです。

 口から食べるための訓練をする時にも栄養は必要です。栄養状態が悪い中でのリハビリテーションは効果が出ないだけでなく、かえって悪化することもあります。

 僕の考え方はとてもシンプルです。口から食べることが難しくなった時こそ栄養が必要。そのための一つの手段として胃ろうもあり得る。その後、体力の回復やリハビリの効果で口から食べる量が増えていけば胃ろうから入れる栄養量を減らせばいいし、十分な栄養が取れれば胃ろうを外せばいい。

 残念ながら医療者の中にも「胃ろうを入れたらおしまい(口からは食べない)」と考えている方がいます。その考えを改めて、「口から食べるために胃ろうで栄養を取る」と考えて、うまく使っていけばいいと思います。(五島朋幸 歯科医)

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五島朋幸(ごとう・ともゆき)
歯科医師、ふれあい歯科ごとう代表(東京都新宿区)。日本歯科大学附属病院口腔リハビリテーション科臨床准教授。新宿食支援研究会代表。ラジオ番組「ドクターごとうの熱血訪問クリニック」、「ドクターごとうの食べるlabo~たべらぼ~」パーソナリティーを務める。 著書は、「訪問歯科ドクターごとう1 歯医者が家にやって来る!?」(大隅書店)、「口腔ケア○と×」(中央法規出版)、「愛は自転車に乗って 歯医者とスルメと情熱と」(大隅書店)など

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