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産業医・夏目誠の「ハタラク心を精神分析する」

医療・健康・介護のコラム

「分かったフリ」「指導したフリ」、増加する「フリフリ症候群」にどう対処する?

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つらい状況から逃げるために分かったふり

 このように野村さんが、分からない点について聞きに行くと、先輩は「前に言っただろう。聞いていなかったのか」「これが最後だぞ。よく聞けよ」の言葉を嫌な顔のまま言ったそうです。

 彼は先輩に嫌われたくないので、つい「分かりました。今後、注意します」と反射的に言ったそうです。それなら嫌な思いをせずにすみますから。「嫌われたくない心情」「つらい状況から逃げている」とも解釈できます。

 以後、分からない点があっても、彼は「分かりました、気をつけます。分かりました」と答えるようになりました。

一方的な説明は、「指導したふり」

 注意する時に、先輩は感情的になっていたようです。仕事が多忙で、彼との相性もあるでしょうが、キツイ言い方が多かった。また、分かるように説明していないのです。つまり先輩は「指導した」と思い込んでいるから、「指導したふり」と解釈できます。

 野村さんにも課題はありますが、今後、このようなことが起こらないようにするために、私は人事部の協力を得て、「先輩の責任を問わない」と言う条件で、上司の課長に武田先輩と面談をしてもらいました。以下がその内容です。

指導は余分な業務か?

課長:いつも本務に加え新入社員指導、ご苦労さま。

(間をおいて)

    あなたの指導方法について後輩から「こうしてほしい」という要望が出ています。どう思いますか?

先輩:課長、私は、以前に指導を受けた先輩のやり方にならってやりました。多くの社員はそうしていると思います。ですからクレームが出るとは思ってもみませんでした。意外だなぁ。

課長:クレームではないですよ。要望かな。

先輩:今まで3人くらい、指導をしましたが、とくに不満があったとは思いません。

課長:そうか。

先輩:理解していましたよ。

課長:分かります。ところで、仕事はマスターできていたのですね?

先輩:そう思います。

課長:忙しいでしょうが、フォローをしたかな?

先輩:課長もご存じのように、私には本業があって忙しいです。そこまではできません。自己責任でやればいいと思います。

仕事が複雑化している

課長:以前に比べて新入社員などから、要望を多く受けるようになりました。いま、仕事内容が多岐にわたり複雑化しています。ですから、従来通りのやり方だけでは、限界があります。

先輩:そう言われても 課長も私も忙しいですよね。

課長:仕事が多くって、お互い、大変ですね。

先輩:残業が月に70時間ぐらいあります。そこに指導まで押し付けられ、しんどいです。分かってほしいですよ。

個々人の問題ではない

課長:分かります。個人の問題だけではなく、従来の方法は行き詰まっているかもしれませんね。

先輩:指導してみて私も、そう思います。

課長:以前に比べ、指導内容が多岐にわたり、かつ複雑で、難しくなっているというのは現実です。そうなると、分かっていないのに、分かったふりをする人が増え続けますから。最大の問題である仕事ミスが増えます。

先輩:会社として、若手の指導は難しい、かつ重要であると認識していただければ。我々の負担も減り、指導しやすくなるかもしれません。

課長:1.指導は大事な業務 2.指導には時間と人がいる 3.研修などで指導のノウハウを理解する必要がある、3点を人事に伝えます。

企業での新人教育を見直そう

 私が多くのケースから感じたのは、学校教育の現場での指導法の変化があります。学校では、様々な機器を使いながら、分かりやすく、かつ時間をかけながら行うようになっています。つまり学校教育が分かりやすくなったため、若手が、企業の現場での分かりにくい教育について行けないと言う視点です。

 旧来、先輩などのやり方をよく観察しながら自分で学びなさい。すなわち「方法を盗みなさい」と言われてきました。それは、今の若い人には無理です。効果が出ない。これは個々人の問題ではなく、指導にもっとエネルギーと時間をかける必要があります。すなわち、分かりやすく、かつ具体例を挙げながら説明できるようにするのです。また、理解できているかどうかを、節目で確認し、フォローすることも大事ですよ。

 同時に指導者研修を行い、ノウハウを身につけてもらう必要があります。

 最後に今回のまとめ・本音トークを図の「マコトの一言」で締めくくります。

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natsume-prof

夏目誠(なつめ・まこと)
 精神科医、大阪樟蔭女子大名誉教授。長年にわたって企業の産業医として従業員の健康相談や復職支援に取り組み、メンタルヘルスの向上に取り組んでいる。日本産業ストレス学会前理事長。著書に「中高年に効く! メンタル防衛術」「『診断書』を読み解く力をつけろ」「『スマイル仮面』症候群」など。新著は企業の人事や産業医向けの「職場不適応のサイン」。ブログ「ストレス点数の夏目」はこちら

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1件 のコメント

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その理屈が古くないですか?

ガル

学校が理解しやすくしている。 だから社会についていけない。 ならばそれは教育なのでしょうか? 将来に無理を感じる教育方法が果たして学校生活より長...

学校が理解しやすくしている。
だから社会についていけない。
ならばそれは教育なのでしょうか?
将来に無理を感じる教育方法が果たして学校生活より長い人生を構築するのに役立っているのでしょうか?
学校が基準なら、端的な人生の価値しか教えない世界を作っているのでは?
夏目教授も古いのではないでしょうか?
無理矢理時代に合わせようとしている内容に感じます。
本当にちょっとしたことで精神的に無理だとする方が増えていますが、強くする必要よりも弱くする方が答えが楽で非難されないからそう言うのではないですか?
それが本当の健康だとお考えですか?
免疫力のない成長は、人を強くするのでしょうか?
企業は収益あって成り立つのではないでしょうか?
その収益あってこそ人を雇入れ事ができる。
なのに、それよりも教育機関にならないといけないなら学校の意味はどこにあるのでしょうか?企業が教育にあわせるのか?
教育が企業にあわせるのか?
先生にも一般企業と言われる現場ではなく、本当の一般的な中小企業に新人といて味わって見て欲しいです。
現実は理想や理論では出来ていないです。
私も心理学の勉強をしながらその面からも今の底辺を常に経験する努力をしていますが、見解が変わります。
世界が、見方が変わると思います。
昔よりチャンスが沢山ありますから。
ぜひ体験してください。
人の話では、得られる知識は脳みその0.1パーセントにも満たないですよ。

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