文字サイズ:
  • 標準
  • 拡大

産業医・夏目誠の「ハタラク心を精神分析する」

医療・健康・介護のコラム

「分かったフリ」「指導したフリ」、増加する「フリフリ症候群」にどう対処する?

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • チェック

 会社で行われるストレスチェックで「高ストレス」とされ、面談に訪れた総務部の野村さん(仮名)は新入社員です。彼の訴えは、教育を担当する6年先輩の武田さん(同)との葛藤です。彼は分からない点について、質問できなくなってしまったのです。分からない点については、「分かったフリ」ですましていましたが、ある時、仕事でミスが発覚しました。以下が私との面談内容です。

先輩は一方的で威圧的

「分かったフリ」「指導したフリ」、増加する「フリフリ症候群」にどう対処する?

イラスト 奥山裕美

私 :ストレスチェックから判断できるのは、高ストレスの自覚症状が多く、上司や同僚の支援がないということですね。職場のサポートはなかったのでしょうか?

野村さん:サポートはありますが、指導する武田さんが苦手で、苦手で。威圧感を感じるんです。

私 :苦手ですか、どうしてかな?

野村さん:指導が一方的なんです。理解できているかどうかはお構いなし。通り一遍の説明です。

私 :理解できているかどうか、気にしていないということですか?

野村さん:そうです。一方的に説明して、その後、形ばかり「分かったか?」と言われます。

質問をしに行くと嫌な顔をされる

私 :分かっていない点を聞けますか?

 (怒りの表情で訴えます)

野村さん:最初は、聞きに行きましたが、嫌な顔で、説明するんです。最後に「説明は、これっきりだ」と。

私 :そうですか。

野村さん:分からない点を再度聞いたら「理解が悪い男」と思っているのが、見え見えで。簡単に説明するだけ。

私 :分かりましたか?

野村さん:分かりません。

私 :それで。

野村さん:仕事をするうちに、分からない点が出てきて、また、聞きに行きました。

私 :うん、分かります。

野村さん:そうしたら、「前に説明しただろう。仕事がたくさんある。忙しいから、そう聞きに来るなよ」って。「最後だぞ」って言いながら説明はしてくれましたが。

私 :なるほど。

野村さん:仕事をしていると、分からない点が出てくるんですよ。

私 :分かりますよ。新人ですからね。

聞きに行くのが怖くなって

 (考え込んでいます)

野村さん:それから、わからない点を聞きに行くかどうか、迷ったんです。

私 :それで。

野村さん:怖いと感じたから。その時は聞きに行けなかった。嫌そうな顔が浮かんで。緊張したから。

私 :そうか。

野村さん:隣の席の人に聞きました。

私 :なるほど。

野村さん:その次の時は、聞けなかった。

私 :どうしました?

「パス」か「分かったふり」のどちらかで

 (考え込んでいます)

野村さん:聞きに行かずに、パス。

私 :パスか。

 (彼は座りなおした。体に力が入っています)

野村さん:パスを続けて分からないまま仕事をしたので、ミスしてしまいました。それがストレスになっているので、相談に来ました。

私 :パスの話が出ましたが、今回が初めてですか?

野村さん:実は先輩に聞きに行った時、理解できない点がありました。でも、嫌な表情をするので、分かったふりをしました。

私 :分かったふり。

分かったふりを続けたらミスが出た!

野村さん:かなりありますよ。

私 :内容が、分からないままですね。

野村さん:そう。聞けないから、分からないままで……

私 :問題は起こらなかったでしょうか?

野村さん:分からないままですから、ミスが出ました。

私 :ミスにつながった。当然ですね。

 (怒りながら)

野村さん:聞くのが大事なのは分かっています。でも、指導方法が悪い。ミスは、僕だけの責任ではないと思います。

私 :正直に話してくれて、事情がのみ込めました。

野村さん:ストレスなんです。つらい……しんどい。

1 / 2

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • チェック

natsume-prof

夏目誠(なつめ・まこと)

 精神科医、大阪樟蔭女子大名誉教授。長年にわたって企業の産業医として従業員の健康相談や復職支援に取り組み、メンタルヘルスの向上に取り組んでいる。日本産業ストレス学会元理事長。著書に「中高年に効く! メンタル防衛術」「『診断書』を読み解く力をつけろ」「『スマイル仮面』症候群」など。新著は企業の人事や産業医向けの「職場不適応のサイン」ウェブ書籍「メンタル・キーワード療法~5分でできる簡易セラピー」。
夏目誠の公式ホームページ」「精神科医マコマコちゃんねる - YouTube

産業医・夏目誠の「ハタラク心を精神分析する」の一覧を見る

1件 のコメント

コメントを書く

その理屈が古くないですか?

ガル

学校が理解しやすくしている。 だから社会についていけない。 ならばそれは教育なのでしょうか? 将来に無理を感じる教育方法が果たして学校生活より長...

学校が理解しやすくしている。
だから社会についていけない。
ならばそれは教育なのでしょうか?
将来に無理を感じる教育方法が果たして学校生活より長い人生を構築するのに役立っているのでしょうか?
学校が基準なら、端的な人生の価値しか教えない世界を作っているのでは?
夏目教授も古いのではないでしょうか?
無理矢理時代に合わせようとしている内容に感じます。
本当にちょっとしたことで精神的に無理だとする方が増えていますが、強くする必要よりも弱くする方が答えが楽で非難されないからそう言うのではないですか?
それが本当の健康だとお考えですか?
免疫力のない成長は、人を強くするのでしょうか?
企業は収益あって成り立つのではないでしょうか?
その収益あってこそ人を雇入れ事ができる。
なのに、それよりも教育機関にならないといけないなら学校の意味はどこにあるのでしょうか?企業が教育にあわせるのか?
教育が企業にあわせるのか?
先生にも一般企業と言われる現場ではなく、本当の一般的な中小企業に新人といて味わって見て欲しいです。
現実は理想や理論では出来ていないです。
私も心理学の勉強をしながらその面からも今の底辺を常に経験する努力をしていますが、見解が変わります。
世界が、見方が変わると思います。
昔よりチャンスが沢山ありますから。
ぜひ体験してください。
人の話では、得られる知識は脳みその0.1パーセントにも満たないですよ。

つづきを読む

違反報告

すべてのコメントを読む

コメントを書く

※コメントは承認制で、リアルタイムでは掲載されません。

※個人情報は書き込まないでください。

必須(20字以内)
必須(20字以内)
必須 (800字以内)

編集方針について

投稿いただいたコメントは、編集スタッフが拝読したうえで掲載させていただきます。リアルタイムでは掲載されません。 掲載したコメントは読売新聞紙面をはじめ、読売新聞社が発行及び、許諾した印刷物、読売新聞オンライン、携帯電話サービスなどに複製・転載する場合があります。

コメントのタイトル・本文は編集スタッフの判断で修正したり、全部、または一部を非掲載とさせていただく場合もあります。

次のようなコメントは非掲載、または削除とさせていただきます。

  • ブログとの関係が認められない場合
  • 特定の個人、組織を誹謗中傷し、名誉を傷つける内容を含む場合
  • 第三者の著作権などを侵害する内容を含む場合
  • 企業や商品の宣伝、販売促進を主な目的とする場合
  • 選挙運動またはこれらに類似する内容を含む場合
  • 特定の団体を宣伝することを主な目的とする場合
  • 事実に反した情報を公開している場合
  • 公序良俗、法令に反した内容の情報を含む場合
  • 個人情報を書き込んだ場合(たとえ匿名であっても関係者が見れば内容を特定できるような、個人情報=氏名・住所・電話番号・職業・メールアドレスなど=を含みます)
  • メールアドレス、他のサイトへリンクがある場合
  • その他、編集スタッフが不適切と判断した場合

編集方針に同意する方のみ投稿ができます。

以上、あらかじめ、ご了承ください。

最新記事