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生きやすい社会に学ぶアイデア

コラム

こころが楽になる支援とは――オープンダイアローグに学ぶ(3)学校での対話――

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 フィンランド西ラップランド、オープンダイアローグ(開かれた対話)の生まれた町にある専門学校には、生徒のこころをケアするスクールナースたちがいました。

 この町のケロプダス病院で始まったこころをケアする取り組みオープンダイアローグは、30年以上の歴史を経て病院の外の地域でも広がっています。2016年の夏、私は友人たちとともに近くの専門学校にお邪魔しました。

 こんにちは、精神科医の森川です。今回から2回にわたり、学校でのこころをケアする取り組みについてご紹介します。

地域中を巻き込む対話の取り組み

こころが楽になる支援とは――オープンダイアローグに学ぶ(3)学校での対話――

 スクールナースたちは、

 「オープンダイアローグに出会ってから、学生たちの相談を受けるスタイルが変わりました」

 と言います。

 この学校では、生徒の直接の相談担当(チューター、先輩)、担任の先生、スクールナースの3名体制で、一人ひとりの生徒をケアしていました。

 「私たちは、ケロプダス病院がやっているほどの対話のトレーニングは受けてはいません。少し知っている程度。だけれども、ケロプダス病院が主催する対話の場には何十回も参加しましたから、どういうものかは少しわかっている部分もあります」

 ケロプダス病院が主催する対話の場には、精神面の困難に直面した人と、その困難に関わる人たちのうち本人が一緒に話してもいいと思う人たちが参加します。それぞれが話したいことを安全に話すことができて、他の人の話を安全に聴くことができるように、2名以上のファシリテーター(3年以上の対話の訓練を受けたセラピスト)が対話を促進していきます。

 こころのケアが必要な学生がいたときには、学生本人とご家族、学校の先生、場合によっては友人も対話の場に参加します。

別々に話すのをやめた

 「以前は学生が相談に来たとき、相談にのるべき3名は別々に話を聴いていました」

 個室で1対1になって話を聴くことは、繊細な話をする学生にとっては安全な空間に違いありません。相談できる人が3名もいる一方で、相談しやすい人としにくい人もいるという点でも、3名のうちの誰かを選ぶこともできます。

 「でも、相談の内容というのは、私たちスクールナースからすると、担任の先生の領域とかチューターが相談にのるべきだわとか、そういうふうに思うのも多かった。互いの悪口になっちゃうこともありました」

 ケロプダス病院のスタイルは、関係する人たちが別々になって話すのではなく、関係する人たちが一堂に会します。

 「学生にとっても混乱のもとだったと思います。相談役3名が別々の場所で別々のことを言うのですから」

 一堂に会したことで、生徒の混乱も、相談者たちの間にあった互いの誤解も減ったと言います。別々に話すと、学生にとっては異なる別々の意見のどれを信じたらいいのかわからなくなったり、声の大きい人の考えに従わざるを得なくなったりすることも起こりやすくなります。この理由は、1対1の関係性が対等ではないからということもあるのですが、このことは次回にご紹介したいと思います。

新しいアイデアが広がる

 一堂に会したからといって、相談役たちの個々の異なる意見が統一されるというわけではありませんでした。

 同じ席で、異なる意見を話す。別の人の異なる意見を聴くことは、対話の場の参加者それぞれにとっては、自分自身が抱いていた誤解が解けたり、新しいヒントを得たりする機会になっていきました。それは相談ごとのある本人にとっても同様のことだったと言います。

 何かの意見に一致させるのではなくて、バラバラのままでいい。

 私が日本で行う対話実践の場でも、私という医師一人で話を聴くよりも複数の専門家と一緒に話を聴くことが、相談者たちにとってよい影響があると感じる場面は少なくありません。 私一人が知っている分野や人生の体験はとても偏っているもので、その範囲を外れたアイデアはなかなか出てきません。

 人生の困難と関連する精神の病、その病だけを取り出して話をするのであれば私だけでなんとかなることもあるのですが、病の話だけでは人生の困難が解消しないと感じることも多くあります。私一人の人生経験では助けになる力が半減してしまう。2名、3名と異なる意見をもった別の専門家がそこにいたとしたら、目の前の困りごとの解消のためのアイデアが広がるというわけです。互いの人生の経験に偏りのあることこそがアイデアの広がる理由になります。

 もっとも、異なる意見によって敵対してしまうということもあるかもしれません。しかし、この地域では、異なる意見がうまく重ならないときには、ケロプダス病院に連絡すると、ファシリテーター2名以上が、対話が安全に促進されるように対話の場を作ってくれることになっています。

 そんなことをこの地域では30年以上も行っているようなのです。

 次回は、この続きをご紹介したいと思います。

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森川 すいめい

精神科医、しんきゅう

 1973年、東京都豊島区生まれ。二つのクリニックにて訪問診療や外来診療を行う。2003年にホームレス状態にある人を支援する「TENOHASI(てのはし)を立ち上げ、現在は理事として東京・池袋で炊き出しや医療相談なども行っている。10年、認定NPO法人「世界の医療団」ハウジングファースト東京プロジェクト代表医師、13年同法人理事に就任。一般社団法人つくろい東京ファンド理事。オープンダイアローグ(OD)国際トレーナー養成コース2期生。著書に、障害をもつホームレスの現実について書いた「漂流老人ホームレス社会」(朝日文庫)、自殺希少地域での旅の出来事を記録した「その島のひとたちは、ひとの話をきかない」(青土社)などがある。

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