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認知症介護あるある~岡崎家の場合~

医療・健康・介護のコラム

八つの財布で妄想対策 「認知症ライフ」を楽しく…若年性認知症の丹野智文さんに聞く(下)

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ショートステイにDVD持参?

  岡崎  認知症の人と家族の双方が楽になる名案ですね。うちは、なかなかそうはいかない問題があって悩んでいます。

 このところ母の体調が思わしくなく、体を休ませるためには父にショーステイに行ってもらいたいんです。でもショートステイに入っている間は、父の大好きなデイサービスには通えません。あちらを立てればこちらが立たずで、母と父のどちらかが我慢するしかない状況です。

  丹野  お父さんは、なんでショートステイがイヤなのかな?

  岡崎  「レクリエーションが少なくて、暇だから」って。

  丹野  お父さんは、どんなことをするのが好きなの? 家にいるときは、何を楽しんでいたか、思い出してみては。

  岡崎  父は、テレビでグルメや旅の番組を見るのが好きです。

  丹野  施設の部屋にはテレビがないんでしょう? だったら、携帯テレビとかポータブルのDVDとかを持ち込んでもいいか、施設に聞いてみては。OKなら、好きな番組を録画したDVDを持っていけばいいと思います。

  岡崎  ショートステイ先の環境を変えるなんて、考えたこともありませんでした。目からウロコです! 

  丹野  認知症と診断されると、家族は病気にばかり目がいきがちだけど、もっと本人を見るといいですよ。岡崎さんのお父さんも、認知症になったからといってまったく別の人になったわけじゃないんですから。

間違えてラブホテルを予約

  丹野  自分で考えて色々やってみるのって、面白いですよ。私の場合、自分でやると失敗することも多いけど、そういうハプニングもけっこう楽しんでます。埼玉の大宮に友達に会いに行った時には、スマホのアプリでホテルを予約しておいたら、それがなんとラブホテルだった(笑)。

 講演先のホテルもだいたい自分で予約しているので、日付を間違えるなんて日常茶飯事。キャンセル料がかかっても、妻は「高い授業料を払ったね」で終わり。講演に関することで、あれこれいわれたことはありません。

 もし家計が苦しければ、こうはいかなかったでしょう。私が認知症になってからも働き続けることができたのは、大きかったです。

  岡崎  うちは父が仕事を続けられず、お金で苦労したのでよく分かります。金銭的な余裕がなくなると、家族も広い心ではいられなくなってしまいます。認知症になっても働ける社会環境が必要ですね。

  丹野  当事者の意識も重要です。本当に働きたいのであれば、どんなことをしても働くという意思が大切。重要な仕事を任せてもらえなくなるかもしれないけど、それを「いじめ」と受け取るか、「病気を考慮してくれた」と受け取るか、考え方次第じゃないかな。

 私は、お客さんの顔を覚えられなくなっていたので、営業から事務に配置転換してもらいました。私なりのプライドがあって、お情けで会社に置いてもらうのはイヤだと思ったから、記憶が悪くてもミスをせず着実に仕事を進められる方法を試行錯誤で作りあげていきました。その働きぶりを周りが認めてくれるようになったんです。

  岡崎  認知症の当事者から当事者へのアドバイスって、これまで聞いたことがありませんでした。すごく新鮮です。それに「意識の持ち方」の話は、ピンチに陥ったとき、すべての人の参考になるようなアドバイスなのではないでしょうか。今回はたくさんの貴重なお話をありがとうございました!

いただきました! しなやかに生きるヒント

 父さんが認知症になって20年余り、どんなことを思い、何を望んでいるのかを知りたいという気持ちで臨んだ丹野さんとの対談。当事者ならではの目線で語られる話に、ハッとさせられる瞬間が何度もありました。どんな状況になっても自分らしく前向きに生きる丹野さんの姿勢に、認知症の当事者とか家族とかの垣根を越えて、雨の日も風の日もしなやかに生き抜くためのヒントをたくさんもらったような気がします。もちろん、丹野さんが今の心境になるまでには、いくつもの壁を乗り越えてきたに違いありません。私よりちょっぴり年上の丹野さんは、人生の大先輩でした! (岡崎杏里 ライター)

岡崎家の紹介はこちら

丹野智文さんのコラム「僕、認知症です~丹野智文45歳のノート」はこちら

丹野智文さん

丹野智文(たんの・ともふみ)

 おれんじドア実行委員会代表
 1974年、宮城県生まれ。東北学院大学(仙台市)を卒業後、自動車販売会社「トヨタオート仙台」(現・ネッツトヨタ仙台)に入社。トップセールスマンとして活躍していた2013年、39歳で若年性アルツハイマー型認知症と診断される。15年から、認知症の人が、不安を持つ当事者の相談を受ける「おれんじドア」を仙台市内で毎月、開いている。現在は、同社に所属しながら、主に講演などの活動に取り組む。著書に、「丹野智文 笑顔で生きる-認知症とともに-」(文芸春秋)。

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認知症介護あるある~岡崎家の場合~

岡崎杏里(おかざき・あんり)
 ライター、エッセイスト
 1975年生まれ。23歳で始まった認知症の父親の介護と、卵巣がんを患った母親の看病の日々をつづったエッセー&コミック『笑う介護。』(漫画・松本ぷりっつ、成美堂出版)や『みんなの認知症』(同)などの著書がある。2011年に結婚、13年に長男を出産。介護と育児の「ダブルケア」の毎日を送りながら、雑誌などで介護に関する記事の執筆を行う。岡崎家で日夜、生まれる面白エピソードを紹介するブログ「続・『笑う介護。』」も人気。

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日野あかね(ひの・あかね)
 漫画家
 北海道在住。2005年にステージ4の悪性リンパ腫と宣告された夫が、治療を受けて生還するまでを描いたコミックエッセー『のほほん亭主、がんになる。』(ぶんか社)を12年に出版。16年には、自宅で介護していた認知症の義母をみとった。現在は、レディースコミック『ほんとうに泣ける話』『家庭サスペンス』などでグルメ漫画を連載。看護師の資格を持ち、執筆の傍ら、グループホームで介護スタッフとして勤務している。

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