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鶴若麻理「看護師のノートから~倫理の扉をひらく」

コラム

脳梗塞で搬送され人工呼吸器をつけた患者 「いつくらいになりますか?」とたずねる家族にどう向き合うか

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 重度の脳 梗塞(こうそく) で救急搬送されてきた75歳の女性患者。搬送直後に呼吸状態が悪化し、人工呼吸器を装着するかどうかを検討する必要がでてきた。同居していた長男によれば、6年前に患者は大腸がんを患い、その後、入退院を繰り返しており、「もう苦しい思いはしたくない」と話していたことがあるという。患者の長女はアメリカで仕事をしており、病院への到着は2日後になる。長女は母にとって自慢の娘であり、「どうしても最期に立ち会わせてあげたい、何とか姉さんが病院に到着するまではもたせてほしい」と、長男は強く延命処置を希望した。

 そこで、患者には人工呼吸器が装着され、2日後に長女がアメリカから帰国した。患者と長女は無事に再会することができた。救急搬送されてから1週間が経過、昇圧剤(血圧を上昇させるための薬剤)も中止し、小康状態を保っている。長男は仕事を休んでいて、長女もアメリカに帰らなければならない状況になってきた。長男は看護師に、「もう1週間になりますが、いつくらいになりますか?」とたずねてきた。

「なんて勝手なこと言うのだろう…」

 みなさんが看護師だったとして、このように「いつくらいになりますか?」と家族にたずねられたらどう答えるでしょうか? この看護師は、「その時がいつになるのか、はっきりとした時期はわかりませんが、医師の説明にもあったように、いつ状態が急に悪くなってもおかしくない状況にあります」とまずは伝えたそうです。この患者は、集中治療室から一般病棟に移動して3週間後に亡くなられたそうです。

 この看護師は、私たちのナラティヴライティングに参加し、非常に正直な心のうちを明かしていました。

 「なんて勝手なこと言うのだろう。患者さんはきっと苦しい思いをしているのに、まるで死を待っているかのように聞いてくる。いつになるかなんて、私たちにもわからない……」

 本当にそうですよね。人の最期がいつになるかなんて、誰にも答えることはできません。もちろん、看護師が家族に対して、このような心の内を直接お話しすることはありませんが、ナラティヴライティングは「その場面で自分がどう思ったか」を書いてみる試みなので、心の声があらわになってきます。この場面について、ほかの看護師と話し合った記録を見ると、状況は幾分異なるにせよ、みな似たような経験をしており、この看護師の思いに共感していたようです。

 この場面を書いた看護師は、「『どうしても最期に立ち会いたい』という気持ちはよくわかるけど、患者本人は本当にこの状況を望んでいたのだろうか。患者よりも家族の思いを優先してしまった形であり、これでよかったのだろうか」と葛藤していました。

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tsuruwaka-mari

鶴若麻理(つるわか・まり)

 聖路加国際大准教授(生命倫理分野)、同大公衆衛生大学院兼任准教授。
 早稲田大人間科学部卒業、同大学院博士課程修了後、同大人間総合研究センター助手、聖路加国際大助教を経て、現職。生命倫理の分野から本人の意向を尊重した保健、医療の選択や決定を実現するための支援や仕組みについて、臨床の人々と協働しながら研究・教育に携わっている。2020年度、聖路加国際大学大学院生命倫理学・看護倫理学コース(修士・博士課程)を開講予定(認可申請中)。編著書に「看護師の倫理調整力 専門看護師の実践に学ぶ」(日本看護協会出版会)、「臨床のジレンマ30事例を解決に導く 看護管理と倫理の考えかた」(学研メディカル秀潤社)、「ナラティヴでみる看護倫理」(南江堂)がある。

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2件 のコメント

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お別れの時間を共有する事とその物理的限界

寺田次郎 関西医大放射線科不名誉享受

コメント欄にもありますが、仕事としては担当医やその代理医師の仕事でしょう。 一方で、横にいる時間は看護師チームの方が長いため、ある程度意見などを...

コメント欄にもありますが、仕事としては担当医やその代理医師の仕事でしょう。
一方で、横にいる時間は看護師チームの方が長いため、ある程度意見などを共有できるとスムーズにものが運ぶ時も多いんじゃないかと思います。

本文にもあるように、人工呼吸器を使って、病状が安定すると難しい部分は多々あります。
医師も看護師も分からない今後の状況を患者家族にどう伝えていくのか?
希望的観測を口にしないことは残酷ですが、奇跡のような話をするのも結局トラブルの元です。
そして、患者家族には日常生活があるので、そのすり合わせも大事になります。
あるいは、そういう場合の枠組みを考えていくのもこれからの医療なのかもしれないですね。

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看護師さんの仕事ではないのでは?

疲れた勤務医

所属からはこういう記事を書くのは、よく納得できるが、はっきり言って看護師が対応するレベルではないと思うが、、、

所属からはこういう記事を書くのは、よく納得できるが、はっきり言って看護師が対応するレベルではないと思うが、、、

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