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食べること 生きること~歯医者と地域と食支援

健康・ダイエット

胃ろうになって亡くなった男性、それでよかったのか

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 浅川良治さん(92、仮名)は食事中むせ込んでいました。娘さんが在宅主治医に相談したところ、歯科医に診てもらうよう指示がありました。ケアマネジャーを通して、うちの診療室に訪問の依頼がありました。

 浅川さんは7年前に脳梗塞を発症。目立ったまひなどはないようでしたが、脳梗塞発症後から食事中のむせが出ており、最近少しひどくなったとのことでした。1回の食事中に2、3回むせますが、食事はほぼ完食されていたと言います。

口から食べていいと言ったが……

胃ろうになって亡くなった男性、それでよかったのか

 僕は話を聞いた後、普段食べているものを娘さんに出してもらい、食べている様子を観察しました。ゴクッと割と大きな音をさせながら食べていました。何口か食べた後、のどに何かたまっていたのか軽いせき払いをしました。娘さんは「こうなっちゃうんです」と言いました。

 一通り食べた後、ご本人と娘さんに、こう言いました。 

 「食べたものがのどにたまってしまっています。おそらく脳梗塞の後遺症でしょう。ただ、飲み込みに障害が出ると、食べものが一時的にのどにたまることはよくあります。程度問題で、浅川さんは咳払いで吐き出す力があるし、ちゃんと飲み込めているので問題はありません。このまま口から食べて大丈夫です。今後、何かあれば連絡してください」

病院の検査の結果、胃ろうになった

 僕が浅川さんと会ったのはこの1回です。実は後日談があります。娘さんは僕の説明に納得がいかなかったらしく、病院に検査入院をさせたそうです。そこで、食べ物や飲み物を飲んでいる様子をエックス線の動画で撮影する検査をしました。その結果、食べ物や飲み物が一部のどにたまっていることがわかり、ほどなく飲食禁止となり、胃ろうになったそうです。

 訪問歯科医は、「食べていいよ」と言い、病院では、検査の結果口から食べることを禁止したわけです。エックス線を使わない僕の判断は間違っていたのでしょうか。

 僕は20年以上訪問歯科をしていますが、この間に検査機器はどんどん進歩してきました。最近は訪問歯科でも、内視鏡をのどの中に入れて、飲み込みの機能を検査するようになってきています。客観的な検査の重みが増してきているようです。正確な検査ができるようになるのは、進歩なのですが、医療者として大切なのはその結果をどう考えるかだと思います。

障害の程度だけではなく、意欲や体力で判断

 僕が訪問診療で診てきたのは、診療所まで自分で来ることができない患者さんたちですから、飲み込みの障害を持つ高齢者は少なくありません。多かれ少なかれ、のどに食べ物がたまることはあり、それでも段階を追って飲み込んでいきます。食べ物がのどにたまっていることは、エックス線で検査をしなくても、飲み込む様子を観察していればわかります。

 浅川さんの場合、それでも「このまま食べましょう」と判断をしたのは、本人や家族の口から食べることへの意欲、栄養状態、体力、食べる姿勢など、飲み込むことに関係するいくつもの要件を確かめてのことです。自分で咳をするのは、気道に食べ物が入らないようにする防御反応ですから、それができることも、体力を判断する材料です。

胃ろうにしてよかったのか……

 より科学的で客観的な印象はありますが、エックス線や内視鏡の検査は判断材料のひとつに過ぎません。医療者に求められているのは、検査を元に機械的に方針を決定するのではなく、患者さんの希望や状態と照らし合わせて、どうすればいいか本人や家族と相談しながら決めていくことでしょう。

 飲食をストップさせることは、病院の判断としてわからないではありません。医療上、安全なように方針を決めたわけです。一方、地域の訪問歯科は、患者さんの生活ぶりも見ながら支援することを考えます。病院の医師が患者にかかわるのはいっ時ですが、地域の訪問歯科医は声がかかれば飛んでいきます。「口から食べましょう」と口にするには、見守っていく覚悟も必要なのです。

 ちなみに浅川さんは胃ろうになってからすぐにお亡くなりになったそうです。胃ろうの判断が良かったのかどうかは誰にもわかりません。ただ、ご本人に聞いてみたかったと思えてなりません。(五島朋幸 歯科医)

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五島朋幸(ごとう・ともゆき)
歯科医師、ふれあい歯科ごとう代表(東京都新宿区)。日本歯科大学附属病院口腔リハビリテーション科臨床准教授。新宿食支援研究会代表。ラジオ番組「ドクターごとうの熱血訪問クリニック」、「ドクターごとうの食べるlabo~たべらぼ~」パーソナリティーを務める。 著書は、「訪問歯科ドクターごとう1 歯医者が家にやって来る!?」(大隅書店)、「口腔ケア○と×」(中央法規出版)、「愛は自転車に乗って 歯医者とスルメと情熱と」(大隅書店)など

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1件 のコメント

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胃ろうを作る判断

ハナハナ

母は4年前クモ膜下出血で倒れ現在在宅介護をしています。 母は今年4月に胃ろうを作りました。 作るまでに1ヶ月位悩みました。 ネットには批判の投稿...

母は4年前クモ膜下出血で倒れ現在在宅介護をしています。
母は今年4月に胃ろうを作りました。
作るまでに1ヶ月位悩みました。

ネットには批判の投稿ばかりだったからです。
最終的には医師に相談しました。
「延命の為だけなら作りません」と言って母の現在の状態を話しました。
医師からは「多少のQOLが出来、多少の意思疎通が出来ているので、延命では無くQOLを維持する為に作る選択肢は有ると思う、でも作ったからと言って予後は分からない」と言われて作りました。
作って5ヶ月ですが今はステーキを食べるまで回復しました。
補装具を付け介助しながら10メートル位歩くまでになりました。
胃ろうによって栄養と水分が入ったおかげだと思っています。

でもそこまで回復させる為に毎日少しづつ柔らかいものから徐々に硬さを変え、食べなくても3食作り、食事の時は必ず車椅子に座らせ、歯磨きをして、と毎日リハビリをしました。
胃ろうは作った後がとても大変です。
家族が胃ろうを作っても、いつか口から食べさせてあげたいという思いが無いと結局はベッドに寝たきりで、時間が来たら栄養と水分を入れ、とただ生かされている状態になってしまいます。
投稿がどんなに批判的でも、家族が頑張れるなら胃ろうは有りだと思います。

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