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明るい性の診療室

コラム

男はいつまでできるのか?

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今井伸(泌尿器科医)

「どうしたんだ、てっ!」

 できることなら命令して、思いっきり局所をたたいてやりたい。

 だが、肝腎かんじんのそこは、なにごともなかったように穏やかである。

 「あれだけ、準備をしたのに……」

 (渡辺淳一『愛ふたたび』幻冬舎文庫より)

 古今東西、多くの男性にとって「いつまで挿入を伴うセックスができるか」は強い関心事です。特に肉体的な衰えを感じ始める中高年男性では、実際に「どうしたんだ、勃てっ!」と心の中で叫びたくなる状況の方も少なくないことでしょう。

 では、いつまでできるのでしょうか。それは、個人差がとても大きく、一概には言えません。最終的には本人の意欲の差ということになります。ただやはり、心身ともに健全なことが長く現役であり続けるための秘訣ひけつです。

「できるけどしない」と「できないは」は大きく違う

 中高年の性生活において、女性にとってスキンシップや会話などのコミュニケーションが大事で、「挿入にはこだわらない」「むしろ必要ない」という意見も多いといいます。一方で、男性は硬い勃起を望み、挿入することにこだわる傾向にあります。

 女性にとって同じ「挿入を伴わないセックス」であっても、男性にとっては「できるけど(女性側の希望から)挿入しないセックス」と「(自分側の事情から)挿入できないセックス」では、意味が全く異なってきます。

 1999年3月23日、日本でもバイアグラの処方が可能となり、勃起不全(ED:erectile dysfunction)の治療は大きく変わりました。その後、レビトラ、シアリスと、バイアグラと同じ働きを持つ薬(PDE5阻害薬)も登場し、勃起が難しくなった多くの男性が恩恵を受けています。特に軽度から中等度までのEDで効果が出る人の割合は高く、加齢に伴う軽度のEDに悩む中高年男性の福音となりました。

バイアグラ以外にも治療の選択肢あり

 EDの治療はカウンセリングに始まり、PDE5阻害薬のほか、プロスタグランディンE1(PGE1)海綿体注射、陰圧式勃起補助具(VCD)、陰茎プロステーシスまで選択肢があります。しかし、現在の日本では性機能の専門医がいる一部の医療機関以外では、PDE5阻害薬の処方しか行われていないのが現状です。

 したがって、近所の泌尿器科医を含めたお医者さんに、PDE5阻害薬を処方してもらい、うまくいかなかったら諦めるか、性機能専門医のいる医療機関を受診することになります。PDE5阻害薬以外の治療に臨むか、いつまで頑張るか、と多くの方が悩まれています。

妻の期待に応えたい

 70歳代のAさんは前立腺がんで、前立腺の全てを摘出する手術を受けました。手術では、前立腺のすぐそばにある、勃起機能に関わる神経も切除せざるをえませんでした。術前にはお話しになりませんでしたが、Aさんは二つ年上の妻と仲が良く、手術の直前まで週1回のセックスが夫婦の楽しみでした。

 術後半年ほどたったところで、ED治療の相談にいらっしゃいました。妻が夫婦生活の再開を求めているけど、「妻の期待に応えられない(挿入できない)」ということでした。

 当初僕は、Aさんより年上の妻は「挿入を伴うセックス」を求めてはおらず、挿入の希望はAさんの思い込みだろうと考えていました。当時の僕たちの病院で前立腺を全て摘出する手術をした後の性機能に関する調査をしたところ、半数以上の夫が術後の勃起の改善を願う一方、約70%の妻は「勃起の改善は必要ない」と答えていたからです。

注射によって希望をかなえる

 Aさんは毎回、妻と一緒に受診されていました。直接妻に話をお聞きしたところ、妻は潤滑ゼリーを使ってはいるものの、本当に「挿入を伴うセックス」を望んでいることがわかりました。

 PDE5阻害薬は神経を介して勃起を引き起こすため、神経まで切除する手術を受けたAさんのような方には通常効果がありません。PGE1海綿体注射は海綿体に直接働きかけて勃起を起こすため、血管に問題がなければ勃起を起こせます。ED治療に関し日本は制度面で遅れており、海綿体注射は治療薬として認められていませんが、性機能専門医の責任の下、必要な患者には広く使われています。

 PGE1海綿体注射を行ったところ、Aさんの反応は良好でした。注射後10分くらいで完全に勃起を果たし、約2時間にわたって維持されました。その次の診察時には、海綿体注射をしてすぐ家に帰り、Aさん夫婦は久しぶりにセックスを楽しむことができました。それから2週間ごとに注射のために受診され、その後何年もセックスを楽しんでいらっしゃいました。

 セックスの目的はカップルによって様々です。全ての男性に勃起が必要であるとは思いませんが、「挿入を伴うセックス」を必要とするカップルには、年齢に関係なく、できるだけ期待に応えられるような治療を提供したいと思っています。

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akaruisei_eye

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大川玲子先生

大川玲子(おおかわ・れいこ)
千葉きぼーるクリニック婦人科医師
 1972年、千葉大学医学部卒業。同大助手、国立病院機構千葉医療センター(旧国立千葉病院)産婦人科医長などを経て、2013年から現職。日本性科学会理事長、NPO法人千葉性暴力被害支援センターちさと理事長。

今井伸(いまい・しん)
 聖隷浜松病院リプロダクションセンター長、総合性治療科部長
 1997年、島根医科大学(現・島根大学)卒業。島根大学助手、聖隷浜松病院泌尿器科主任医長などを経て、2019年4月から現職。日本性科学会幹事、日本性機能学会評議員、日本泌尿器科学会指導医、島根大学臨床教授。

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1件 のコメント

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羨ましいです

オリーブ

その70歳代のご夫婦が羨ましいです。私達はまだ50代初め、しかし妻である私の更年期前後の障害がひどく、この年になって初めてセックスが怖くなってし...

その70歳代のご夫婦が羨ましいです。私達はまだ50代初め、しかし妻である私の更年期前後の障害がひどく、この年になって初めてセックスが怖くなってしまいました。膣の乾燥がひどく、気分的にも波が大きく、潤滑剤を使用しても出血、 1週間近くも痛みが収まるのにかかるので、回数が驚く程減ってしまいました。最初は単に乾燥に問題ありと思っていましたが、セラピーでも有名な所で診察、検査してもらったところ、腟内のLichen screrlosだと分かりました。PRP療法も受け、少しは血流も良くなり赤味を帯びた色になってきましたが、まだ殆ど白く、セラピーを受けて、エクササイズに励んでいた所、今度は二度も尿道炎になり、それも中断せざるを得なくなりました。やっと収まったころですが、生理が無くなりより楽しめると思ってる所だったのでショックです。 症状は良くなることもあるそうですが、今だ完全治癒例がないそうなので、なかなか前向きにエクササイズに励む気持ちになれません。

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