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「続・健康になりたきゃ武道を習え!」

コラム

極真空手の大会に5歳で出場 突きや蹴りへの恐怖と闘った経験は成長の糧

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 前回は、武道が体に与える効果・効能を紹介した。今回は心・精神への効能を考えてみたい。

習わせた理由は「自分と向き合える部分が大きい」

 極真会館総本部代官山道場の尾上(おのえ)(げん)()君(11)が空手を習い始めたのは、まだ4歳だった2012年の5月。このコラムの1回目に書いたが、空手を習わせた理由について、母親の ()()さんは「団体競技ではなく個人競技だからこそ、自分に向き合える部分が大きいのではないか、と思いました」と話していた。

 「自分に向き合う」とはどういうことだろうか。

 一つのエピソードを紹介しよう。

 5歳で保育園の年長だった玄樹君は、父親の(みつ)(まさ) さんの仕事が休みの毎週月曜日、公園で補助輪なしの自転車の練習に励んでいた。貢正さんが後ろから押してしばらく走る。手を離すと、すぐに倒れたり、両足を地面についたり。何度も何度もトライしたが、ダメだった。玄樹君は「怖い」と言う。「まったく乗れる気配はありませんでした」。侑紀さんはそう振り返る。

 そんな日が続いた13年7月のある日曜日、極真空手の関東大会に初めて出場することになった。一人で演武する「型」ではなく、技を出し合って相手と戦う「 (くみ)()」。少年部の場合は、頭部を守るヘッドギアやグラブ、サポーターを装着するが、実際に突きや蹴りを体に当ててもいいルールだ。

試合では誰も助けてくれない

 会場までは母親と一緒に来たが、たとえ幼い子どもでも、試合のコートには一人で向かわなければならない。結局は自分自身。一人で、これから始まる未知の出来事に対処しなくてはならない。試合では誰も助けてくれないのだ。

玄樹君が初めて出場した関東大会。これだけ大勢の人たちが見守る中で戦うのはさぞ緊張したことだろう

 玄樹君が初めて「試合」に出場したのは、関東大会の数か月前に開かれた総本部の内部試合。この時、5歳(ともに尾上侑紀さん提供)

 侑紀さんは「自分の恐怖心と一人で闘い、今、目の前のしなければいけないことをする。個人競技の空手の場合、その『自分と向き合う』部分が大きいと思うんです」と言う。

 勝手に想像してみた。まだ小学校に入る前の小さな体で、少し大きめの道着を来たわが息子が、母親から離れ、一人で試合のコートに向かって歩く……。もう、それを見ただけでウルウルしてしまいそうだ(ちなみに私の息子は2人ともすでに20代後半なので、わが息子というより、「孫」のイメージだ。まだ孫はいないけど)。

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山口 博弥(やまぐち・ひろや) 読売新聞東京本社編集委員

 1962年福岡市出身。1987年読売新聞社入社、岐阜支局、地方部内信課、社会部、富山支局、医療部、同部次長、盛岡支局長、医療部長を経て、2018年6月から編集委員。同年9月から1年間、解説部長も兼務。医療部では胃がん、小児医療、精神医療、慢性疼痛、医療事故、高齢者の健康法、マインドフルネスなどを取材。趣味は武道と映画観賞。白髪が増えて老眼も進行したが、いまだにブルース・リーを目指している。

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1件 のコメント

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評価と成長の多面性と競技特性を育成教育に

寺田次郎 関西医大放射線科不名誉享受

個人競技の方が、偶然や多くの他者に左右される要素が少ないので、わかりやすく自分自身に向き合いやすいですね。 個人でのトレーニングの制約も少ないで...

個人競技の方が、偶然や多くの他者に左右される要素が少ないので、わかりやすく自分自身に向き合いやすいですね。
個人でのトレーニングの制約も少ないですし、多くの人にとって、良い面も多いのかもしれません。
本文の通り、困難や苦手なものと向き合いながら、今までできなかったことが小さく見えてトライできることもあるかもしれません。
空手のコンタクトは即打撲に繋がってしまいますが、そのことと自分の心や人間関係のバランスを知るのも学びです。

一方で、社会はより多くの他者を伴った複雑系です。
自分自身、サッカーという競技に使った時間とエネルギーは競技実績単独で見るとマイナスの方が大きいです。
しかし、一つの事象を多面的に評価することや客観的になされるとは限らない集団の評価などの学ぶことも多くありました。

例えば、上級者同士で、味方から良い場所に良いタイミングでパスが来れば、まずボールを取られることはありません。
その上のレベルでは、取られそうで取られない所に集団でボールを動かしながら相手の個や組織を崩してしまいます。
技術や体力だけでなく、心理や戦術も含めた高度な融合です。
しかし、誰かが少しミスしたり意地悪すれば崩れます。
個人の利害や気分、プライドなどが絡むと評価はカオスです。

保護者さん自体が競技の細かい所まで知っていることは少なく、せいぜい高校や大学レベルだと思いますが、そういう複雑性や時代の違いも理解して、あまり目先のあれこれで評価しないようになってほしいですね。
子供にはミスする権利も、敗れる権利も、成長が遅滞する権利もあります。
また、空手で敵を倒すことより、自転車に乗れることがもたらすものの方が人生で豊かな時間を増やすでしょう。
そういう部分も含めてスポーツや武道の価値を見てやる必要があります。
己に克つと言いますが、いつも皆が勝てるわけではないことを知るのも学びです。

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