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Dr.イワケンの「感染症のリアル」

コラム

マラリアの流行防げ 継続した取り組みに日本も積極的な貢献を

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エイズ、結核と並ぶ3大感染症

マラリアの流行防げ 継続した取り組みに日本も積極的な貢献を

 2019年8月に行われたG7サミットで、安倍総理大臣は世界三大感染症のエイズ、結核、マラリアの流行を終息させるために、グローバル・ファンドに8億4000万ドルを拠出すると表明しました。

  自分の国のエイズ対策がお粗末なのに、そんなこと言ってる場合か?なんてイヤミは申しません(言ってるけど)

 確かに、日本も結核については先進国の中では多い中規模 (まん)(えん) 国ですし、HIV感染・エイズも問題です。しかし、やはり問題の規模が圧倒的に大きいのは途上国です。

  全世界には3700万人以上のHIV感染者がおり、77万人が毎年命を失っていますまた、世界人口の4分の1ほどが結核菌に感染しており、毎年130万人が結核のために命を失っています

 安倍首相がこうした感染症対策に力を入れるのは、国際保健上のミッションに非常に合致していますし、国際保健領域での日本のプレゼンスを高めるのにも必要なことでしょう。カネだけでなく、ヒトも出して、実践的な結果を出せばさらによし……なんてイヤミは申しませんが(言ってるけど)。

発熱、体の震え、吹き出す汗

 さて、三大感染症の最後の一つはマラリアです。昔は日本にもマラリアはあったのです。が、公衆衛生対策の成果のおかげもあり、現在は国内にはマラリア原虫はいません。マラリアは蚊に刺されて感染しますが、国内で見つかるマラリアは、全て海外で蚊から感染して、(主に)飛行機で輸入された輸入マラリア、ということになります。

 山崎豊子の「沈まぬ太陽」では、冒頭で主人公がアフリカでマラリアに 罹患(りかん) するシーンが描かれています。熱が出て、ガタガタと体が震え、解熱すると激しく汗が体中から吹き出す、そんなシーンだったと記憶しています。これが典型的なマラリアの臨床像です。さすがは大御所、山崎豊子、病人の描写も非常にリアルです。

 もっとも、山崎豊子は代表作「白い巨塔」のなかで、正義漢の主人公、浪速大学のエリート医師、里見脩二の左遷先を「山陰大学」としています。島根出身のぼくとしては、山崎豊子、うーむ、な存在です。まあ、後醍醐天皇以来、島流しと言えば山陰なのは周知の通り。島根県の「あの島」のことだって、日本人の何人が本気で心配して……、おっと、これ以上書くとこの連載は突如の打ち切り、「俺たちの戦いはこれからだ」になりかねない……。

 マラリアは、よく48時間おきとか、72時間おきとか周期的に熱が出ると教科書には書いてありますが、現実には多くの患者さんは毎日続く熱で発症します。症状の重症度には原虫の種類とか、何回過去に感染したかとか、自分の免疫能力とか、いろいろな要素が絡むのでなかなか一般化は難しいです。

感染を繰り返すと症状は軽く

 過去に感染した経験を持つと、自分に免疫能力がつくために症状は軽くなりがちです。

 ぼくが中国は北京の診療所に勤務していたとき、某アフリカのやんごとなきお方が熱を出して受診してきました。わりとケロッとしていて元気でしたが、「ぼく、多分またマラリアになっちゃったんだよねー。もう何十回もやってるからな。悪いけど、検査して薬くれない?」と受診してきました。

 ぼくにはその時、何十回どころか片手で数えるくらいしかマラリアの診療経験がなかったのですが、みんな重症患者ばかりだったので、「ほんまかなー、このオッサン……、ハッタリかましてんじゃないのー?」なんて非常に不遜なことを内心考えて……はもちろんいませんでしたが(いました)。うわべは非常に丁重な立ち居振る舞いでこの要人を診察しました。 

 やはり、重症感のないなにかの軽い病気かなあ、と思いましたが、血液を顕微鏡で見たら、おお、いました、マラリア原虫。このオッサン……じゃない、やんごとなきお方の言うことは正しかったのです。やっぱり経験値を軽んじてはいけません。患者の話には 真摯(しんし) に耳を傾けねばなりません。若気の至りで、うっかり大失敗しそうになったぼくは、大いに反省して肝を冷やしたのでした。

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岩田健太郎(いわた・けんたろう)

神戸大学教授

1971年島根県生まれ。島根医科大学卒業。内科、感染症、漢方など国内外の専門医資格を持つ。ロンドン大学修士(感染症学)、博士(医学)。沖縄県立中部病院、ニューヨーク市セントルークス・ルーズベルト病院、同市ベスイスラエル・メディカルセンター、北京インターナショナルSOSクリニック、亀田総合病院(千葉県)を経て、2008年から現職。一般向け著書に「医学部に行きたいあなた、医学生のあなた、そしてその親が読むべき勉強の方法」(中外医学社)「感染症医が教える性の話」(ちくまプリマー新書)「ワクチンは怖くない」(光文社)「99.9%が誤用の抗生物質」(光文社新書)「食べ物のことはからだに訊け!」(ちくま新書)など。日本ソムリエ協会認定シニアワインエキスパートでもある。

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1件 のコメント

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誰のためのマラリアや災害対策を考えるか?

寺田次郎 関西医大放射線科不名誉享受

マラリアキャリーとか書いたらアメリカ大使館からも連載打ち切りの忖度が来ますでしょうか?(笑) さて、先生の感染症学会の提言に対する提言を拝見しま...

マラリアキャリーとか書いたらアメリカ大使館からも連載打ち切りの忖度が来ますでしょうか?(笑)

さて、先生の感染症学会の提言に対する提言を拝見しました。
改めて、医科学的に正しい診断治療も、政治経済の力の中でのほどほど適正運用を行っていくことは簡単ではありません。
歴史的経緯を伴った政治経済の問題がベースにあるからです。

LCCでアジアやアフリカの観光客や商業交通が増えている中でのマラリアの予防や診断治療のコストを誰が負担するのかも実は絶対的な答えがありません。
アジアで儲けている企業が出すべきという判断もあれば、アジアで主導的な立場を維持したい日本政府の仕事と考えることもできるでしょう。
一方で、そういう事であれば、玄関口の病院の待遇を良くしてほしい気もしますし、パンデミックに備える医師やハコモノ、システムのために予算を組んで欲しい気もします。
田舎の病院の建て替えも社会問題ですけど、予算補助と引き換えに駅近に少しゆとりをもって部屋数やベッド数を確保すれば、感染症以外も含めて災害時に大きな力を発揮するでしょう。

真面目な意見というのは誰かの利害や気分にとって不都合なもので、なかなか難しいものであります。
島流しや左遷のリスクも実際にありますが、誰も真実のカケラも言わなくなれば、僕らは詐欺師と同列になってしまいます。
真面目な放射線科診断医も器材の進歩に伴って、見えないものが見えることで板挟みです。
焚書坑儒の時代じゃあるまいし、一生懸命修行して、やっとこさ見える真実を口にして恨まれるのはひどく割に合いません。

そんなボヤキはさておき、マラリア対策なり、熱帯感染症への様々な取り組みにお金が降りるのは、放置されて一般庶民だけが不利益を受けるよりはるかにいいですね。
あるいは、先生の絶対に負けられない戦いはそこにこそあるのかもしれません。

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