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認知症介護あるある~岡崎家の場合~

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反抗期が「うれしかった」 認知症の父と娘の気になる関係…若年性認知症の丹野智文さんに聞く(中)

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どう見てる? 父の活躍

激しい反抗期も「うれしかった」 認知症の父と娘の気になるカンケイ…若年性認知症の丹野智文さんに聞く(中)

漫画・日野あかね

 39歳で若年性アルツハイマー型認知症と診断された丹野智文さんと、認知症の父さんを介護する私の対談の続きです。

 丹野さんには2人の娘さんがいます。「若年性認知症の父」と「娘」という間柄は、そのまま我が家にも当てはまります。ヤングケアラー(家族などを介護する若者)の取材は私のライフワークなので、若年性認知症の父を持つ女性にはこれまで何人も出会ってきましたが、今回はお父さんサイドの意見を聞くまたとない機会です。

 丹野さんが認知症とわかったあと、娘さんたちとの間に変化はあったのでしょうか? メディアに頻繁に登場し、全国を飛び回って講演するお父さんを娘さんたちはどう見ているのでしょうか? 気になるその関係を聞いてみました!

娘たちには「普通のパパ」

  岡崎  ヨミドクターのコラムでは、奥様や娘さんたちのことも語っていますね。家族の関係がとてもいいんだろうなと感じます。

  丹野  結婚してから20年以上になるけど、妻とのケンカは数えるほどしかないんですよね。娘たちは、反抗期には大変でしたけど。

 例えば、朝、起きてきて食卓に座ると、長女が「パパ、邪魔」って言うんです。仕方なく隣の席に移ると、今度は次女が「パパがそこに座るとテレビが見えない」って。「俺の居場所はどこにあるのか」と困惑しつつも、そういうのが何だかうれしかったんですよ。私が認知症になっても、子供たちにとっては「普通のパパ」なんだと思って。

  岡崎  私にも5歳の息子がいるので、親としてそういう話を聞くとジーンとしてしまいます。でも認知症の父を持つ娘としては、病気とわかっていてもイライラしてキツい態度をとってしまって、後から反省することも……。家族だから正直な気持ちを言ってぶつかり合ってもいいのか、それとも感情を抑えて穏やかに接するべきなのか、悩みます。

  丹野  ぶつかることがあってもいいと思うけど、お父さんの行動に困っているなら、なぜそういう行動をとるのかをまず考えてほしいです。こっちの言っていることが伝わっていないのであれば、「耳が遠いのか」「説明が難しかったのか」とか、「だったら筆談してみたらどうか」というふうに、いろいろ考えて試してみるんです。ぜひ本人にも話を聞いてみてください。意外な理由が明らかになって、問題が解決することもありますよ。

他人の力を借りよう

  岡崎  父は、病気になる前は仕事、仕事で、私が小さい頃からあまり話をしたことがないんです。正直、どう接していいかわかりません……。

  丹野  私だって、娘たちとはそれほどたくさんしゃべるわけじゃないんですよ。子供には子供の世界があって、母親にも全て話してるわけじゃない。こっちだって家族には言いにくいこともあるし、父親として、弱みをみせたくないところもある。

 他人の方が本音を話せたり、気楽に聞いてもらえる時もあるんじゃないかな。近所の知り合いでも介護スタッフでも、お父さんが話しやすい人がいれば、その人に話したことを家族が聞き出してお父さんの気持ちを理解していくのでもいいんですよ。

  岡崎  確かに、他人を通すと客観的になれるかもしれませんね。

  丹野  家族は元気な頃を知ってて、つい現状と比較してイライラしちゃうから、他人の方が優しくできる面もあるんです。岡崎さんのお父さんだって、デイサービスの優しい女性スタッフとのおしゃべりを楽しみにしているかもしれませんよ。

  岡崎  介護する人へのメッセージとして「家族だけで抱え込まないで」とよく聞きますが、それを当事者から言ってもらえるとすごく気が楽になります。

  丹野  家族だからって24時間365日一緒にいたら、お互いにイライラしちゃいますよ。介護のプロにいいケアをしてもらって、家族に余裕ができたら、もっと優しくなれるでしょう。

 私の両親は今は元気ですが、もし介護が必要になったらいい施設を探します。私自身も、将来的に介護が大変になったら、施設に入るのがいいと思っています。妻や娘たちには、笑顔で会いに来てほしいです。

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認知症介護あるある~岡崎家の場合~

岡崎杏里(おかざき・あんり)
 ライター、エッセイスト
 1975年生まれ。23歳で始まった認知症の父親の介護と、卵巣がんを患った母親の看病の日々をつづったエッセー&コミック『笑う介護。』(漫画・松本ぷりっつ、成美堂出版)や『みんなの認知症』(同)などの著書がある。2011年に結婚、13年に長男を出産。介護と育児の「ダブルケア」の毎日を送りながら、雑誌などで介護に関する記事の執筆を行う。岡崎家で日夜、生まれる面白エピソードを紹介するブログ「続・『笑う介護。』」も人気。

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日野あかね(ひの・あかね)
 漫画家
 北海道在住。2005年にステージ4の悪性リンパ腫と宣告された夫が、治療を受けて生還するまでを描いたコミックエッセー『のほほん亭主、がんになる。』(ぶんか社)を12年に出版。16年には、自宅で介護していた認知症の義母をみとった。現在は、レディースコミック『ほんとうに泣ける話』『家庭サスペンス』などでグルメ漫画を連載。看護師の資格を持ち、執筆の傍ら、グループホームで介護スタッフとして勤務している。

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