認知症介護あるある~岡崎家の場合~
介護・シニア
反抗期が「うれしかった」 認知症の父と娘の気になる関係…若年性認知症の丹野智文さんに聞く(中)
家族の幸せが最優先
岡崎 それがベストだと私も思うのですが、介護に他人の手を借りることを「世間体が悪い」と考える人もいますね。我が家では、父をデイサービスに送り出してから外出しようとした母が、ご近所の奥様から嫌みを言われたり……。
そうした外野の声に傷つき、疲れ果ててしまい、母と私で話し合って、父が介護を受けていることは人に言わないと決めました。実は私、顔写真は公表してないんです。顔が出てしまうと、介護サービスで父に関わっている人に言いたいことが言えなくなったり、「娘がこんなことを書いてるよ」と、両親に苦情を言ってくる人がいるかもしれないし……。
丹野さんは、認知症の当事者としてメディアに取り上げられたり、全国で講演活動をしていますが、そのことをご家族はどう思っているんですか?
丹野 私の活動について、家族は特に何も言いません。妻は「亭主元気で留守がいい」って思ってるみたい(笑)。
メディアからは、「奥さんや娘さんたちの話を聞きたい」と言われますよ。でも、妻が「それはやりたくない」って言っているので、家族への取材はお断りしてるんです。
私は人に会うのが好きで、講演も楽しんでやっているのですが、中には「病気の夫にあちこちで講演をさせるなんて」と、妻を非難する人もいるかもしれません。活動にはやりがいを感じていますが、私にとっては、家族の幸せが最優先なんです。
認知症と診断された時、どうやって家族を養っていくかを必死に考えました。勤務先の自動車販売会社に残るため、洗車でも何でもいいから、自分にできることをやろうと思っていました。もし独身だったら、あっさり仕事をやめてそのまま引きこもっていたかもしれません。今の私があるのは、守らねばならない家族がいたお陰なんです。
立場は逆でも思いは一緒
丹野家の娘さんたちのお話から、お互いに「家族」への思いを語り合いました。全く逆の立場の私たちですが、「仕事にやりがいを持っている」ことや、「家族の笑顔が一番大事」という点で、すっかり意気投合。当事者だろうが、家族だろうか、大切にしたいことは同じなんですね。「自分にとって大切なものを守るために何ができるのか」を考えて、これからの介護生活の指針を定めるきっかけを、この対談で得たように思います。
認知症の当事者として知られる丹野さんの、父として、また夫としての顔を垣間見ることができました。そこには深い、深い、家族への愛情がありました。うちの父さんにも、私や母さんへの秘められた愛があるのかも!?と思い、胸が温かくなりました。
次回、丹野さんとの対談の最終回は、なぜか私の「介護お悩み相談」に、丹野さんがズバリ回答します!(岡崎杏里 ライター)
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岡崎家の紹介はこちら
丹野智文さんのコラム「僕、認知症です~丹野智文45歳のノート」はこちら
丹野智文(たんの・ともふみ)
おれんじドア実行委員会代表
1974年、宮城県生まれ。東北学院大学(仙台市)を卒業後、自動車販売会社「トヨタオート仙台」(現・ネッツトヨタ仙台)に入社。トップセールスマンとして活躍していた2013年、39歳で若年性アルツハイマー型認知症と診断される。15年から、認知症の人が、不安を持つ当事者の相談を受ける「おれんじドア」を仙台市内で毎月、開いている。現在は、同社に所属しながら、主に講演などの活動に取り組む。著書に、「丹野智文 笑顔で生きる-認知症とともに-」(文芸春秋)。
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