明るい性の診療室
妊娠・育児・性の悩み
夫と「頑張る」〜挿入障害治療の基本〜
大川玲子(婦人科医)
腟に男性器が入らない「挿入障害」に共通するのは、女性が持つ挿入への強い恐怖や拒否感です。従って、挿入障害でのセラピーは、挿入への過度な恐れを取り除くため、挿入の練習を段階的に行う行動療法を活用して、徐々に性交できるようになることを目指します。
痛いのではなく違和感だと気付く
治療のポイントをいくつか挙げてみます。
一つ目は、易しい課題から始め、少しずつ苦手意識を除くことです。
初めは腟の入り口に触れただけで、「痛い」と手を離してしまう人がいます。落ち着いて、腟の実際の感覚に集中すると、「痛いのとは違う。違和感だ」と気付きます。違和感を我慢して指を少し挿入すると、「きつい」「きついところを抜けた先は柔らかい」など、指を通じて腟の構造を感じ取れるようになります。
きついのは無意識に腟が収縮するためで、「硬い壁に囲まれた感じ」という人もいます。この腟の収縮は「ワギニスムス(腟けいれん)」と呼ばれますが、けいれんというより、無意識の収縮というのが適切です。
尿漏れ予防の体操も役立つ
次はリラックスするための方法です。
性行為(セックス)で体の反応や、性の反応がうまく起こらない「性機能障害」は、不安や緊張が引き起こします。6月中旬の本コラムで紹介した、体の力を抜き手足の重さや温かさを念じて感じ取ろうとする「自律訓練法」など、リラックスしやすくする練習が性機能障害の解消に役立ちます。
腟の無意識収縮を和らげる方法には、尿漏れ予防などで知られる「骨盤底筋体操」があります。骨盤の底を覆い、排泄をコントロールしている骨盤底筋肉群は腟の運動にも関わっていますが、多くの女性は「腟」を意識して活用する習慣がありません。そこでまず尿意を我慢するつもりで、ギューッと筋肉を締め付け、その力を抜くと腟も緩みます。挿入の練習では、この骨盤底筋体操を組み合わせると良いでしょう。
中には無意識収縮がない人もいますが、恐怖感の強いこのタイプの人も練習方法は同じです。
三つ目は、目標設定についてです。挿入や性交によって気持ち良さを得ることを目標にせず、まずは中立な感覚で受け止めることを大切にします。
1 / 2
【関連記事】
※コメントは承認制で、リアルタイムでは掲載されません。
※個人情報は書き込まないでください。